「ねえねえ日向くん、わんちゃんは好き?」
「え?」
唐突な質問に驚きつつも、話題を変えようとしてくれたのかと思い素直に頷いた。
「そう。だったらネコちゃんは? 鳥さんはどうかな?」
「……好き、ですけど」
それが何か? そんなニュアンスに気付いていても、彼女は話をやめなかった。
「服は? 日向くんなら、洋装も似合いそうだけど、着物とかも簡単に着こなしちゃいそうよね」
(昔は女物も着てたけどね……)
「ふふ。確かに女装も似合っちゃいそう」
「えっ」
「他にはどう? 雑貨屋さんとか、本屋さんとか。骨董品……は、そんなに興味ないかな」
「……えーっと」
彼女の話の意図がわからず。ただただ戸惑っていると、彼女はまた、悪戯っぽく笑った。
「日向くんって動物飼ってる?」
「い、いえ」
「じゃあ飼っていたとする。可愛い可愛いわんちゃん。名前は……そうね、アオイにしましょうか」
(……間違ってない。たぶん間違ってない)
「その愛犬アオイと初めての場所に散歩に行ってると、いろんなところに目移りしたのか、いつしかアオイは飼い主の貴方を放ってどこかへと行ってしまいました。ま、所謂迷子犬になった」
(有り得る。いつかどこかで絶対にある気がしてならない)
「大好きな貴方の可愛いわんちゃんが、行方不明になってしまいました。……さて、貴方はこのあとどうするでしょう?」
「……え?」
彼女は続けて問い続けた。
「たとえば日向くんが喫茶店で食事をしている時、店員またはお客さんが謝って貴方の服を汚してしまったら?」
「……それは」
「大事にしたくないし面倒だからその場で切り上げようと貴方はさっさとお店を後にするだろうし弁償もしてもらわないでしょう、そう面倒だから」
(……当たってるけど、もしかしてオレ、貶されてる?)
「貴方が可愛い彼女とデートをしていたとする」
(コロコロ話が変わるんですけど……)
「歩いていると、何やら喧嘩しているような声が聞こえた。野次馬根性で見に行ってみると、どうやらトラブルのようだ。男二人が大きな声で怒鳴り合い、次第にお互い手を出し始める」
「は、はあ……」
「すると! 一人の男が突き飛ばされ、手に持っていたケバブが此方に飛んできた! あー大変! 服が汚れてしまったよ!」
(……うん、やっぱりおんなじニオイがする)
「そうなったら、日向くんはどうする?」
「面倒なんで、その場からさっさと立ち去ります」
「汚れたのが、可愛い可愛い彼女の服だとしても?」
「…………」
「『今日のデートのために、日向くんに可愛いって言ってもらうために買ったおニューの服だったのに』って、彼女が悲しそうに落ち込んでいたとしても?」
「わかって言ってますよね、それ」
楽しそうに笑いながら、その後も彼女は、懲りずに訊いてきた。
「雑貨屋さんで棚から商品が落ちて壊れちゃった! 近くにいたのは貴方だけだったけれど、貴方は何もしていない。でも店員さんは貴方に疑いの目を向けるばかり」
「……面倒なんで、お金払ってさっさと出ますそんな店」
「狭いお店の中で、ドン! 誰かに突き飛ばされちゃった! その衝撃にいくつもの商品が。でもその突き飛ばした人はもうどこかへと行ってしまった」
「また疑われるんですよね。だったらもう払った方が」
「その目を向けられるのが、可愛い可愛い彼女だったら?」
「………………」
「そこの本屋さんはカメラNG。なのにシャッター音が聞こえて店員さんが音の出所を探していると、そこにいたのはたまたま電話をかけていた」
「……いや、それに関しては」
「可愛い愛しの彼女だとしたら?」
「………………」
「閑古鳥が鳴いている骨董屋。たまたま綺麗なお皿に目を奪われていると、ガシャーン! 大きな音が! 慌てて出てきた店主に、何もしていないのに犯人にされ」
「たのが彼女ならって言うんでしょ。わかってて何回やるんですかこの下り」
「一応これで最後だったのよ? ふふ、でもよっぽど好きなのね、葵ちゃんのこと」
「それが確認したくて、何回も質問してきたわけじゃないでしょうに」
ええそうねと、彼女はオレの問いに嬉しそうに頷いた。
そして、この今までの下りの、最終的に行き着く問いを、今一度訊いた。
「貴方は――誰に助けを求めるかしら」



