その、オレの決まった腹に、彼女は応えてくれた。
「彼女――葵ちゃんが任された本当のお仕事は、事の事後処理と信用の回復のようね」
【何】の事後処理か。……そんなものは、訊くまでもなかった。
「……信用の、回復って」
「貴方が考えているもので大正解」
真っ直ぐに返ってきた言葉に、身震いが止まらない。恐怖もある。けれどそれを遙かに上回る怒りや苛立ちに、この震えを治める術が、オレにはわからない。
「そうね……。それを解決するためには、もう少し私の話を聞いてくれるといいかも」
「……え?」
「聞けそう?」
「……はい」
まるで、心でも読んでいるかのようだった。けれどそれが不快にも感じないのは、彼女の持つ柔らかい雰囲気のおかげか、それともやっぱり……。
「敢えて“本当の仕事”を口にしなかったのは、葵ちゃんに責任を負わせたくはなかったから」
普通の仕事であれば、部下の責任は上司が負うもの。それが当たり前だけれど、今回それが例外だったのは彼女が事件の当事者と言っても過言ではないからだった。勿論、それを好きでやったことでないにしても。
「それでもそんな風にお仕事をお願いしたのは、彼女の力を存分に買っていたから。少し、手を貸して欲しかったからね」
「いや、でもだからって……」
「ねえ日向くん」
「は、はい」
「あの時の事件のことに関しては、葵ちゃんが未成年だったのと、周りの人たちが大好きな彼女を守ったから、世間ではほとんど彼女の関与は隠されたわね」
「そもそもあいつには、何の罪もありません」
「ええ知ってる。けれど、そう思わない人々も中にはいるわ。それこそ、彼女が関与していたと調べられる人たちなら尚更」
「……それって」
様々な場所から、目を付けられることになる。それは――国内に限らず。
「それだけ物凄いことをしちゃったの、葵ちゃんは」
「……それでも」
「それでも、今こうして葵ちゃんが笑っていられるのは、沢山の人に愛されているからね」
「え……?」
「貴方に、沢山愛してもらえているからね?」
「……」
湯飲みの中が空なのに気付いて、彼女が新しくお茶を注いでくれる。
それでも。いくら飲んでも、口がカラカラだった。



