話をする前にオレの知っていることが知りたいと言うので、オレのわかる範囲で彼女に話をした。会話という会話が始まったのは、蜜柑が好物らしい彼女が、四つ目の皮を剥き始めた時だ。
「話がイマイチ繋がらなくてもやもやしてる」
「……まあ、そうですね」
そんなオレに優しい笑みを浮かべ蜜柑を一つ渡しながら、彼女はゆっくりと口を開く。
「けれどそれは間違いではないし“イコール”の話。貴方の中で矛盾やズレがあるのは、そのどちらもが最終的に行き着く場所ではないからね」
「……どういうことですか」
お茶を啜った彼女は、勿体振らずに率直に答えた。
「彼女が結果として任された仕事が、未解決事件の解決でもなく、ここの子たちの子守でもないから」
「……それを、オレには言えないんですか」
「言えないのは、彼女がそれを許可されてはいないからのようね」
「…………」
視線を落とすオレに、彼女は一際優しい声を落とした。
「さっきも言ったけれど、愛情表現って人それぞれでしょう? 貴方と、うちの旦那が違うように」
五つ目の蜜柑を剥きながら、彼女は話す。
「それでも、人は喧嘩をする。愛情表現がどんな形であれ」
「……」
「日向くんたちが今回喧嘩をしてしまった原因は、お互いが大事な会話をやめてしまったからね」
「え……?」
「言わないままだと、相手は不安になる。それがたとえ、つうかあの仲だとしても」
「……」
「葵ちゃんを、どうか怒らないであげてね。彼女も彼女で、少しムキになったところはあるけれど、それでも一生懸命頑張っていたのよ」
「……怒るも何も、オレには何かを言う資格なんて」
「それから、すごく反省したのね」
「え? 反省って……」
悪戯っぽい笑みを浮かべた彼女は、どこか嬉しそうに話を続けた。
「貴方に、何とかして話をしたいと思った。だからここへと連れてきた」
「でも、それは許可が……」
「まあでも、本当は違うかもしれないわね」
「え?」
「直接言われたわけではないし、お願いされたわけでもない。そもそも、それを許可をされていないのは、私が貴方と、直接お話がしたかっただけかもしれないわね? うん、それが一番素敵かも」
「……えっと?」
何が本当で、どれが冗談なのか。何も知らないオレが、それを判断できるはずもなく。
「ただ一つ。間違いなくはっきり言えることがあるとすれば……」
――それは、私が恋する女の子の味方だってこと。
でも何故か、その悪戯な笑みだけは本当なのだろうと。自分の中で、揺るぎない自信があった。



