すべての花へそして君へ③


「それで。何したんだよ、あいつに」


 そんなオウリを手でそっと静め、チカは視線を外しながら小さく頬杖をついた。


「……なんでオレがしたって決定してるの」

「なんとなく」

「だったらオレの言い分も」

「なんとなくだけど、お前の顔に“オレが悪かった”って書いてある」

「…………」

「ように見える」

「……顔、洗ってこようかな」

「ははっ。図星かよ」


 その彼の笑顔に、冗談で逃げ回るのはもうやめることにした。
 いじって遊ぶのは好きだけど、チカに核心をつかれてしまうと、どうもその冗談さえ言えなくなってしまう自分が、昔からいるからだった。


「……でも、かと言って何から話せばいいのか」

「俄かには信じられないようなことなんだろ?」

「え? まあ、それは」

「別に知ってるわけじゃない。お前がさっき、あんまり言いたくなさそうだったからそう思っただけ」

「……チカにしては相当鋭いね」

「ちーちゃんは訊かないだけだよ。そのまま他の人に任せるか、わかってても気付いてない振りするんだ昔から」


 オウリの言葉に、オレは目を瞠った。けれど、それはチカも同じだった。


「なんだよオウリ。褒めても何も出ねーぞ」

「本当のこと言っただけだよー」

「買い被り過ぎだろ。知らねーの? チカは時々バカと読むんだぜ」

「それは知ってる」

「そこは否定しろよ」

「だから、そのちーちゃんが訊いたってことは、相当我慢ならなかったってことだよひーくん」

「だろうね」

「いや、お前こそ否定しろよ。オレのバカさ加減知ってるくせに」

「相当泣き虫なのは知ってる」

「それが否定できねーんだよな……」


 本気で腕を組みながら悩み始めるチカに、思わず笑いがもれた。
 オウリの言ったことを信じていないわけではないが、それがどこまでが本当で嘘なのか、きっとこいつは訊いたところで答えてはくれないだろう。
 確かなのは、昔からこいつに何度も救われたってこと。それがわかっていれば十分。


「……今何つった?」

「ま、まあ最後まで聞いてよチカゼくん」

「でも、今のはちょっと聞き捨てならないよね」

「オウリくんも、ちょっと落ち着いてね」


 まだ出出しだから。ここで躓いてたら、何も始まらないから。