「それで。何したんだよ、あいつに」
そんなオウリを手でそっと静め、チカは視線を外しながら小さく頬杖をついた。
「……なんでオレがしたって決定してるの」
「なんとなく」
「だったらオレの言い分も」
「なんとなくだけど、お前の顔に“オレが悪かった”って書いてある」
「…………」
「ように見える」
「……顔、洗ってこようかな」
「ははっ。図星かよ」
その彼の笑顔に、冗談で逃げ回るのはもうやめることにした。
いじって遊ぶのは好きだけど、チカに核心をつかれてしまうと、どうもその冗談さえ言えなくなってしまう自分が、昔からいるからだった。
「……でも、かと言って何から話せばいいのか」
「俄かには信じられないようなことなんだろ?」
「え? まあ、それは」
「別に知ってるわけじゃない。お前がさっき、あんまり言いたくなさそうだったからそう思っただけ」
「……チカにしては相当鋭いね」
「ちーちゃんは訊かないだけだよ。そのまま他の人に任せるか、わかってても気付いてない振りするんだ昔から」
オウリの言葉に、オレは目を瞠った。けれど、それはチカも同じだった。
「なんだよオウリ。褒めても何も出ねーぞ」
「本当のこと言っただけだよー」
「買い被り過ぎだろ。知らねーの? チカは時々バカと読むんだぜ」
「それは知ってる」
「そこは否定しろよ」
「だから、そのちーちゃんが訊いたってことは、相当我慢ならなかったってことだよひーくん」
「だろうね」
「いや、お前こそ否定しろよ。オレのバカさ加減知ってるくせに」
「相当泣き虫なのは知ってる」
「それが否定できねーんだよな……」
本気で腕を組みながら悩み始めるチカに、思わず笑いがもれた。
オウリの言ったことを信じていないわけではないが、それがどこまでが本当で嘘なのか、きっとこいつは訊いたところで答えてはくれないだろう。
確かなのは、昔からこいつに何度も救われたってこと。それがわかっていれば十分。
「……今何つった?」
「ま、まあ最後まで聞いてよチカゼくん」
「でも、今のはちょっと聞き捨てならないよね」
「オウリくんも、ちょっと落ち着いてね」
まだ出出しだから。ここで躓いてたら、何も始まらないから。



