また、オレの言いたいことがわかったのだろうか。それにはただ苦笑いをして、彼女はふっと目を伏せた。
「日向くん」
「はい」
そしてオレの疑問には答えず、ただ真っ直ぐ、彼女はこちらを据えた。
「冗談や可愛い嘘もいいけれど、たまにはストレートの愛を葵ちゃんに分けてあげてね」
「え? あ、はい」
「あれ? もしかしてしてる?」
「えーっと、はい。たぶん」
「勘違いしちゃった!」と、慌てて顔を隠す彼女につい、先程自分もだいぶ勘違いしてたことがぽろっと口から出てしまった。
わざわざ墓穴を掘るなんて。……どうしてだろうか。雰囲気がちょっと、似てるのかな。あおいと。
お互い落ち着きを取り戻した頃。彼女が静かに口を開いた。
「貴方たちを見ていると、自分たちのことを思い出して」
「え? でも」
「決して日向くんが旦那に似てるとか、そういうことじゃないのよ」
「……」
「ただね、懐かしいの。ただただ、それだけなのよ」と、彼女は優しい顔で笑った。
「ねえ日向くん。彼女と喧嘩したことは?」
(……あれは、喧嘩というのか)
「喧嘩の原因は人それぞれあるわ。もう仲直りはした?」
「……一応」
「まだ怒ってるのね」
「怒っては……」
「じゃあ何か引っ掛かっている?」
「というよりは、寂しかったんだと」
そこまで言って扉を一度確認してから、「そう思います」と答えると、彼女はまた優しい笑顔を浮かべた。「素直でよろしい」と。
「葵ちゃんならしばらくは帰ってこないと思うわ。こことは別の台所で子どもたちと夕ご飯の準備をしているから」
「え」
「だから、誰かが呼びに来るその時まで。私とよければお話ししましょう?」
「……で、ですけど」
「貴方がここまで来たのは、訊きたいことがあったからではないの?」
「……確かにそうです。でもそれは」
「彼女が直接は話せないから、ここまで貴方を連れてきた」
「……!」
「もしそうだとしたら、私とお話ししてくれるかしら」
「どういう、ことですか」
「それを含めて話をする前に――」彼女は一度立ち上がって何かをこちらへと寄越した。
「ねえ。蜜柑好き?」
「え。でももうすぐ夕ご飯……」
「お茶菓子の代わり。今頃だけどね」
「……」
何だろうこの、憎めないマイペースな感じが、やっぱりどこか似ている気がした。
もらった蜜柑は、甘酸っぱくて、柔らかくて。……とびきり優しかった。



