すべての花へそして君へ③


 こんな場所に、これだけたくさんの子どもたち。あおいや神出鬼没のあの人が関わっていることもあるし、きっと彼女も“訳有り”なのだろう。


「初めまして。よろしくお願いしますマザー」

「はい、よろしくお願いします」

「えー。もうちょっとネイティブー」

「それはここぞという時に」

「ここぞとはどこぞ?」

「さあ? 新婚旅行あたりじゃない?」

「だ、だいぶ気が早いんでないかい??」

「何照れてんの」

「て、照れてない」

「わかったわかった。嬉しかったんだねーはいはい。今からでも行き先考えときなよ」

「ちょ、ちょっとヒナタくん。冗談もほどほどに」

「多分、冗談だと思ってないのあんただけだよ」

「へ? え。冗談……」

「うん」


 ずーんと見るからに落ち込んでいる様子の彼女を見下ろしていると、隣からハッと声が上がる。


「大変、もうこんな時間! 葵ちゃん、申し訳ないのだけれど夕ご飯のお手伝い、お願いしてもいいかしら」

「はっ! も、もちろんです!」


 というかそのつもりで来たのでと、あおいはオレにあっかんべーとしてから部屋を慌てて飛び出していった。見るからにここが台所のようだけれど、材料でも取りに行ったのか。


「それで? 新婚旅行はどこにしようと思ってるの?」

「彼女の行きたいところならどこへでも」


 退屈にでもなったのか。いつしか彼女に抱かれていた子どもも部屋を飛び出していった。彼女曰く、あおいのところに行ったんだろうと。
 どうやらあおいは、ここでも大人気らしい。子どもたちの表情がそれを物語っていて、オレも喜びを隠しきれずにいた。

 彼女が出してくれたお茶に、何口目かの口をつけた頃。


「……あはっ」

「え?」

「いえ、ごめんなさい。ちょっと思い出し笑い」

(……そんなにさっきの遣り取りがおかしかったのかな)


 オレとあおいにとっては、あんなの日常茶飯事だし。つうと言えばかあと答える、そんな感じなのだけど。


「いえね? うちの旦那なんだけど」


 勘違いも甚だしかった▼


「彼、愛情表現がそれはそれはストレートで」

「は、はあ……」

「それで、嘘は絶対言わないのよ」

「……ふむ、オレとは真逆だと」

「まあ、隠し事はちょっとあるみたいだけれど」

「……隠し事?」


 それがわかっているのに、彼女は旦那さんに何も聞かないのだろうか。


「彼がそうなのはきっと、私の体質も関係しているのだろうけれど」

(体質……?)