「ここが、ボーダーラインだ。ヒナタくん」
君が知り得なかった事が、もしかしたらこの先にあるかもしれないと知ったら。……さあ、君はどうする。
「……一体、どういう」
「シズルさんでないといけなかったのは、すべての事情を把握していたから。改めて説明する手間が省けたからだ」
「……あんなクソ長いこと裏話したのに、まだオレの知らないことがあるっていうの」
「ああ、そうだ」
ここが、ボーダーライン。
何も知らないままの、白でいられるか。全てを知って、真っ黒になってしまうのか。
「一個言っとくけど」
「なに」
「白ではないよね、オレ」
「へ?」
「だってほら、あんたを救い出すためにいろいろ知っちゃったわけだし。全部知ったと思ってたけど、まだ……なんだよね? 完全に真っ黒かと思ってたけど。ま、片足どっぷり浸かったグレーってところか」
「ぐ、ぐれー……」
「あれ? 違う?」
「……ううん。そうかも」
そんな、いつ黒に染まってしまうかもわからない不安定な場所にいたとしても、君は君のままでいられてる。きっと、この先もずっと。……それが本当にすごいってこと、君は知ってるのかな。
なんだかなあ。ここまで連れてくることも、この話をすることも、わたし的には結構勇気がいることだったんだけど。
「言ったろ。あんたの帰ってくる場所はいつだって、オレの隣だって。あんたが言ったんだよ」
「……うん」
「ボーダーライン? そんなのオレには見えないし、見ようとも思わない。オレに見えてるのは、自分がどっぷり黒に染まったとか勘違いしてる、目の前の惚れたバカ女だけだよ」
「……はは」
「オレはそこには行かない。だからあんたも行かない。もし行ってたってんなら帰ってこい今すぐ。オレんとこまで。超特急で」
「あはっ。はい!」
どうやら、もう完璧に回復魔法を使いこなせてるみたいだ。
「ねえねえ」
「ん?」
「今ね、ものすごーくキスしたいんですけど」
「……」
「……だめ?」
「勝手にすれば」
「屈んでくれなきゃできないなあ」
「だったら上ってきなよ、ここまで」
「あは。意地悪だっ」
やっぱり、君には到底敵わない。



