すべての花へそして君へ③


 つい先程届いたというおもちゃだけを残し、途方に暮れた彼は悲しそうな背中でお店をあとにした。


「……ねえ、減俸ってそんなになの?」

「え?」

「いや。あの人、ああ見えても一家の大黒柱でしょ? 小さい女の子二人もいるし、何かと入り用じゃん」

「ヒナタくんなんで知ってるの? もしかして会った?」

「一人だけね」

「いいなあ! わたしまだ会ったことないんだよー。うらやましい!」

「はいはい。で? 質問の答えは?」

「減俸分は奥さんの通帳にペナルティーとしてこっそり入れてるので問題なし。奥さんにももちろん報告済みだよ」


「それならいいや。心配して損した」と大きな欠伸をしたヒナタくんに、父と娘の扱いの差を思い知ったのだった。


「訊いてもいい?」

「ほい?」


 残りのおもちゃの準備が整う間、店内にあるおもちゃや文房具を二人で見ていた。
 バリバリバリッと、おままごとの包丁でお野菜を切っていると、隣でフライパンを律儀に振っているお父さん、何やら訊きたいことがあるご様子。


「男手って、いつもいるの」

「そんなことないよ。今日は特別荷物が多かったから」

「そのためにオレも連れてきたの」

「いやいや違うよ。正直ヒナタくんに持ってもらわなくても、わたしだけで十分運べる量だったし」


 先程出て行った彼が持っていた量に、『あれのどこが?』って顔をされたけど、それについてはスルーを決め込んでおいた。


「別に、これぐらいならオレだって」

「お仕事のこと?」

「……あの人じゃないといけなかったの」

「ヒナタくん」

「いいよ別に。流石にもう、何か訳があるんだってわかって」

「だって、車運転できないでしょ?」

「……そうだけどっ?」