すべての花へそして君へ③

 向かい合うように体の向きを変えると、ヒナタくんは少し申し訳なさそうに笑いながら、うんと頷いた。


「みんなに心配かけたからね。それが終わってからでも、間に合う?」

「うんっ。へっちゃらだよ!」

「じゃあオレは、…………」

「ん? どうしたの?」


 いきなり小指と小指を絡められた。改まった顔で、どうしたのだろうかと思っていたら……。


「オレの顔が変形しても、好きでいてくれる?」


 なんて、必死な顔で言うんだもん。
 一体どれだけの人に、君はどれだけの迷惑をかけたというんだい。顔が変形するほどなのかい。


「ははっ。当たり前だよ」


 もし、殴られてしまったとしても。そしてたとえぶちゃいくでも。そうでなくても。わたしは、ヒナタくんという世界でたった一人の君が好きだから。それについては、絶対に針千本飲まなくて済みそうですよ。

 でも、もし殴られるようなことがあったとしてもだ。


「でも、そうなる前にわたしが守ってあげるから大丈夫だよー」

「これぞ最強のボディーガード」


 それは、ヒナタくんだけの問題じゃない。わたしの問題でもあるから。
 だから、一緒に謝りに行こう。お礼をたくさん、たくさん言いに行こうね。


「ねえヒナタくん」

「ん?」

「もしわたしの顔が変形しても、傷ができてもそれが治らなくても、ヒナタくんも好きでいてくれる? 愛してくれる?」

「もちろん」

「言ったね? しかと聞きましたよ」

「うん。正直あおい以外は愛せない自信しかない」

「お、おう」

「だから、たとえあおいの顔が変形したとしても好きだし」

「うん」

「一生治らない傷がついたとしても、それごと愛してやる自信しかないし」

「うん」

「人類の域を超えてサイボーグとかになったとしても、多分大丈夫かな。ああ、でもサイボーグになるなら胸はEカップに戻しといてね」

「いやいやいや、そもそもサイボーグになる予定ないですからね」

「違うよ。早く胸の大きさ戻してって、遠回しに言ってるんだよ」

「わかってるよ。ていうか遠回しじゃないよ」


 ――――――…………
 ――――……


「えー。そのネーミングセンスはないわー。ダサーい」

「どっこいどっこいだと思うけどねオレは」


 初詣をしに隣町を目指していたわたしたちは、現在ヒナタくんが今日見たという夢の話で盛り上がっていた。


「でもまさか、ヒナタくんに煙草を吸いたい願望があったとは」

「ないないない。これからだって吸おうとは思わないよ」

「いや、別にヒナタくんがどうしても吸いたいって言うなら、止めはしないよ?」

「高額納税者にはなりたくないよ」


 ただでさえ酒飲みだものねえ。でも煙草の吸い過ぎは健康に悪いし、今はいいけど、もし将来吸い始めたらこのこと話してみよう。もちろんお酒も。ストップ健康被害。