もう一回かまそうと思ったら、何故かふわっと体が宙に浮いた。


「人がせっかくいろんなもん総動員して耐えてきたのに」

「え。あ、あの」

「ああおはようこんにちはこんばんはおやすみそしてさようなら」

「ままま、待て。待つんだヒナタくん」

「待たなくていいっつったからもう待たねえ」

「いやいや。ど、どこに行こうとしてるんだい」

「オレの部屋」

「お、オレの部屋で何しようってんだ」

「セックス」

「わあああ!!言葉攻め!? いや違う! オブラート! ヒナタくんオブラート! それには包んでせめて!」

「交尾」

「包めてないよお。寧ろ生々しいよおぉ……」

「もう絶対待ってやんねえ。嫌だって言ってもやめてやんねえ。泣いてもぜってえ止めてやんねえ」

「……言わないよそんなこと」

「あのね、マジでもう冗談で言ってないからね。あおいは絶対、そんなこと思ってないんだろうけど」

「……思ってないよ? 冗談だなんて」


 ――ピタリと足を止めたヒナタくんは、キッと可愛くこちらを睨んでくる。

“またそういうこと言う”
“もう騙されないんだから”

 そんな風に言いたげな視線に、思わず噴き出してしまった。


「……たくさん。我慢させてごめんね。たくさん。愛してくださいな」


 カチッ――と。とうとう理性という名のスイッチが切れた。


「開けて」


 お姫様抱っこで部屋の前まで運ばれ、そう言われてついさっき扉を開けたと思っていたのに。
 あっという間にベッドの上で、わたしは唇を奪われていた。性急な口付けに上手く息継ぎができず、合間にヒナタくんの体を押し返しながら大きく息を吸う。


「はあ、はあっ。……ひなた、くん」

「なに」


 息を整えている間にガバッとスウェットのシャツを脱いだヒナタくんは、少し苛立たしげにそれをベッド下へと放り投げる。
 明るい部屋に、細い体の筋肉が、はっきりと生々しく浮かび上がる。……もうやめるとか言ってたのに。なんだかんだ稽古をつけてもらっていたらしい。


「語ってあげようか、生身の魅力」

「だ、だいじょうぶ、です」


 遠慮しようと伸ばした手は、掴んだ彼の唇に触れた。そのまま指先を口の中に含んだかと思ったら、指へその間へ手の平へ手首へ。執拗に舌を這わせてくる。
 くすぐったくて、そして恥ずかしくて。思わず顔を背けると、首筋に噛み付くようなキス。また一つ増えた。


「今さら怖いって言ってもやめないよ」

「い、……言わないよ」

「うそ。ちょっとビビってるでしょ」

「それは、……いつもと雰囲気違うから」

「本気だからね」

「っ」


 長い指が、首筋から鎖骨をなぞって、下へ下へと下りていく。ぷつん、ぷつんと、ブラウスのボタンが外される。冷静な表情で。でも火傷しそうなほど熱い眼差しで。

 早鐘を打つ。本当に……本気だ。


「一日、たっぷり時間かけて愛してやるから」


 両手をベッドに縫い付けて。彼は吐息ごと唇を奪っていった。