「……ひなたくん」

「考えてから発信してよ」

「うん、考えた。考えたよ」

「はあ。……なに? 今度は何を」


 そんな彼のスウェットをつんと摘まむと、気怠げに顔をこちらの方へと向けてくれる。
 そこで言葉が切れたから、いやでも気付いてしまった。気付かない振りしてたのに。ヒナタくんものすごい驚いてるんだもん。
 どうやら、尋常じゃないほど顔が赤いらしい。その自覚はあるけど……。


「あ、あの。……その、さっきは考え無しに喋って、ごめんなさい」

「……あ、あおい」

「で、でも。全く考えてなかったかって言われたらそうでもなくて。言うタイミングがなくて。でも言わなきゃって。伝えとかなきゃって、思って」

「……ちょ」

「わ、わたし我慢強い方だと思ってたんだけど、どうやら……その。ヒナタくんに関してはもういろいろダメみたいで」

「……ちょっと、あおいさんや。深呼吸しよう、ね? 一旦落ち着いて話を」

「離れてる間に、我慢切れたみたいなの」

「……」

「もう待たないで」

「……」

「もうおあずけしないで。いっぱい、いっぱいさわって――」


 わたしの、ぶっ飛んでしまったネジを大慌てで探してくれたらしいヒナタくんは、「待て待て待て、お願いだからちょっと待て」と、抱き寄せながらわたしを片足の上に乗せた。


「あれだけ、考えてから発信しろって言ったのに」

「す、すまん。ちょっと暴走した」


 ぽんぽんと、頭を撫でてくれる手が心地いい。そのまま、ヒナタくんの首元に顔を埋めるように、体を預けた。
 さっきこぼしたコーヒーが、ちょっと服についているらしい。おひさまの匂いに混じって、豆の香りがする。これもこれで、なんだか朝が来たなあって感じがしてすき。


「……ねえ。言ってること矛盾してない? いろいろ」

「……? 何が?」

「触れって言ったり、自分から振ってきておいてさっきはストップかけてきたし。襲ったら襲ったで場所がどうのこうのって止められて。どう考えたって、よっぽどオレの方がお預け食らってるんだけど」

「……まだ、言葉攻めには慣れてない」

「こっ(……言葉攻めなんて言葉、知ってたんだ)」

「でも、慣れてないだけで嫌じゃない。ちょっと恥ずかしいけど」

「(恥ずかしがる前提だから、それに関しては慣れてもらっちゃ困るんだけど)」

「……でも、確かに矛盾してるかも」

「まあ、もういいよ別に。あんたに振り回されるのくらい、オレはもう慣れ」

「触って欲しいだけじゃない。わたしがヒナタくんに触りたいんだ」


 そっと唇を寄せると、何が起こったのかとヒナタくんは頬を少し染めながら惚けたような顔で自分の頬を押さえていた。
 そんな表情がちょっと新鮮で。それから、すごく可愛くて、嬉しくて。


「あはっ。……おはよう、ひなたくんっ」