染みになったら大変だと、わたしが黙々と掃除していることをいいことに、ヒナタくんに変なスイッチが入ってしまった。ババババアーッ! とエンジン全開で始まった力説に、慌ててストップを入れる。お酒入ってなかったよね、これ。
 ていうかね、大丈夫だから。それはなんとなく、ぼんやりとだけどわかってるから。聞いてて恥ずかしいので、そういうことは直接的に言わないでください。


「言ってて恥ずかしくないとでも思ってんの。あんたのためでしょ、はっきり言わねえとわかんねえんだから」

「お、怒んないでよ。どうどう……」


 何が言いたいのかと申しますとですよ。


「その。……欲情しないのかなって」

「したから襲ったんだよね朝」

「それはそうなんだけどさ」

「……何が言いたいの?」

「女としては、男性に欲情してもらった方が、おめかしした甲斐があるというものじゃないの?」

「は?」


 百合ヶ丘でもそうだったけれど、理性が~箍が~限界が~とか、言ってる割にはヒナタくん、なんだかんだ直接触れたところで打ち勝ってるのだ。大好きなお胸と太もも触ってくるくらいで済んでたし。まあ、場所が場所だったからそれについてはわたしとしても有り難かったのだけど。


「ち、ちょっと待て。誰に入れ知恵された」

「本屋の雑誌」

「(似たようなことしてたからオレも人のこと言えねえ……)」


 さっきだって、厳密に言えば最後までしなかったし。


「……あの、さあ」


 一つ。ため息か吐息か。その間くらいの息を吐いた彼は、椅子の上で膝を抱えた。


「なに。どうして欲しいのオレに」

「え? いや、ただふと疑問に思って」

「ふざけんなよ何が疑問だよしれっとしやがって」

「そ、そんなこと言われても」


 また悪い癖が出てしまったようだ。気になってしまったことはとことん追求してしまうという。


(何かないかって探した話題が、これだもんなあ……)


 いやいやいや、わたしだって無傷ってわけじゃないんだよヒナタくん。自分でも、振るならもっとマシな話題振れよって。思ってるからね、今は。
 ぷいっと、ヒナタくんはそっぽを向いてしまった。


「動揺してるオレの方が、すげえバカみたいじゃん」


 って呟きながら。拗ねながら。耳とほっぺた赤くしながら。


「ねえ」

「は、はい」

「今何時かわかってんの」

「え? えーっと、じゅ」

「まだ日は高いの。いろいろ考えてから発信して」

「ご、ごめんなさい」


 その熱がうつったのか、体温が少し上がった気がする。今頃になって恥ずかしくなってきたぞ。
 ポリポリと頬をかく。ヒナタくんは言い切ったのか脱力した様子でテーブルに突っ伏していた。