『――ん』
「……くそ。……っくそ……」
『……くん。……ひなたくんってば』
「……は?」
おかしい。彼女は確かに今、オレの腕の中で息絶えたはずだ。それなのに、声が聞こえるはずは……。
『――いいかい、このまま聞いて』
「……」
目が、片方だけ開いている。パクパク口が動いてる。
……状況が上手く飲み込めない。
「……なん、で……」
『こらこら。段取り忘れたの』
「は? だんどり、って……」
『でも君の、迫真の演技のおかげで何とか今気を逸らせてる。わたし大根だからさ』
「……何、言って。だって血が……」
『え? まさか本当に殺されたかと思ったの? いやいやこれ全部血糊だから』
「…………」
『まあ確かに量はちょっと多かったかもね。次からボスに量の加減しといてもらわないと……あ、でも発注したのシズルさんだっけ。全くもう、相変わらずヒナタくんいじめるの本当に好きなんだから』
未だ体をぐったりとさせている彼女は、そんな文句を言いながら状況について今一度教えてくれた。
どうやら、一緒に仕事をしているらしいオレたちは、悪い奴らから【とある三人】を守らなければいけないらしい。所謂ボディーガード。
『見て。わたしが死んだと思って背中を向けてる。気付かれないうちに次の作戦に移るよ』
そう言う彼女の片目の視線にあったのは、犯人らしき黒い影と――。
「道明寺アザミ? 白木院エリカに、乾ミクリまで……」
『そう、今回はこの三人を、命懸けで何としても守らないといけないの』
「……い、いやいやいや。何故? 何が起こって」
『まだ、続いてるんだよ』
――続いてる? 何がだよ。
何がまだ、お前に付き纏っているって言うんだ。
『いい? 手筈通りヒナタくんは三人の保護を』
「ま、待ってあおい」
『わたしは、あの諸悪の根源の――を、やっつけてくるよ』
「は? 何て」
いや、今はもうそれどころじゃない。
「助かったんなら逃げようよ今すぐ! こんな危ないところから」
『ひなたくん……』
「ずっと。ずっとつらかったんだ。あんたが何度も何度も死ぬ夢を見て。気が狂いそうで」
『…………』
「オレはもう、これ以上あおいが傷付くのを見たくは」
『忘れたの』
「……は?」
『言ってくれたじゃん。わたしの好きなようにしたらいいって。応援してくれるって。あと回復魔法、かけてくれるんでしょう?』
「……っ、今は、そんなこと言ってる場合じゃ」
『あの時わたしが言ったこと、……もう忘れちゃった?』



