すべての花へそして君へ③


「眠くなった?」

「うん。安心したら急に来た」


 お互いの言いたかった思いとか、伝えたかったことは十分に話せた。残すところと言えば、あとはわたしの詳しい仕事内容についてくらいだ。
 今日はきっと、今までで一番疲れただろうから。だから、ゆっくり休もう。次にわたしたちに必要なのは、きっと休息だ。


「眠くなることって、この半年あんまりなくて」

「ふふ。電車の中では寝てたけど」

「だから、やっと戻ってきたんだなって。オレの日常」

「…………」


 その中心にはわたしがいる。もちろんわたしの日常にも君がいる。
 だから……帰ってこられた。


「もし怖い夢見たら、起こしていいからね?」

「……子供扱い。男のプライド以前の問題になった」

「気にしなくていいのに。でも本当に無理しないでいいから」

「……ありがと。でも、多分大丈夫だと思う」

「そう?」

「うん。なんとなくだけど」


 根拠はないけど、確証はある。いや、予感かな。
 感覚的なところならわたしの得意分野だ。ヒナタくんが言うんなら、わたしもそうだと思う。


「いい夢見ろよ? どうせならわたしの夢!」

「いやでも見ると思うよ」

「わたしも素敵な夢が見られるといいな」

「……あんたも、どうせ見るならオレの」

「これから見るのが初夢になるのかな? それとも今晩? でも見るなら一富士二鷹三茄子見たいよねー!」

「………………」

「ん? どうしたのヒナタくん」

「オレのことおちょくってるでしょ」

「あはっ。そんなことないけど、明けましておめでとう。今年もどうぞよろしくね」

「取って付けたような新年の挨拶」

「お、怒んないでよ」

「しみじみとしてただけだよ」

「あーそうだね。本当に半年、あっという間だったね」

「さめざめの間違いかも」

「な、泣かないで」

「冗談冗談」


 可笑しそうに笑ったヒナタくんが、すっと腕を伸ばしてくる。これはどうやら、腕枕なるものをしてくれるようだ。……失礼します。


「明けまして、おめでとうあおい」

「おめでとう。ヒナタくんっ」

「今日も、まだいられるの」

「うんっ。一緒に初詣行く?」

「うん行く。……いられるまで、いる」

「ヒナタくん……」


 目蓋が降りていく彼の頬を、そっと撫でる。


「言ったでしょ? いるよ。ずっと一緒にいるよ」

「……うん」

「今日は多分ね、本当にいい夢見られると思うんだ」

「うん」

「だから……『また明日』ね。あ、いやもう今日か。起きたらおはようって言おう」

「……ん」

「これからいっぱい、言おうね」

「…………」


 あの時言えなかった、次の約束も。


「……おやすみなさい、ヒナタくん」


 そして、おはようも。この近い距離で。