びろろろ~んとほっぺたを抓んでくる手は、優しいけどやっぱりちょっと痛い。
恥ずかしがることないのに。寧ろ、そう言ってくれたから、信じられたんだ。
「……怒った?」
「別に怒ってはないけど」
「あ、白魔導師のことじゃなくて」
「これ以上引っ張ったら怒る」
ちょっと面白がってたのがバレたらしい。後が怖いので、ここは素直に応じておく。
「さっき言ったこと。嫌だったかなって」
「なんで? それがあおいの望みでしょ?」
「それはそうなんだけど、だからってヒナタくんのことそんな風に束縛したいわけじゃ」
「主夫か。流石に予想してなかったけど、それはそれで面白そうではあるよね」
「…………ん?」
「え? 違うの」
い、……いやいやいや。流石にちょっと、そこまでは。
ていうか今からそんなこと言っていいのかい? わたし図々しいから、いろんなことを考えちゃうよ?
……うん、よく考えよ。まだ早いよ。ちょっと落ち着こうよ。そんな風に縛るつもりは、全くもってなかったよ。わたしも予想外だよ。まだ他に、考えるべきことがあるでしょうよ。
「オレは、役に立てないのが嫌だった」
「ひなたくん……」
「役得じゃん。しかもオレにしかできないとか」
「そ、そうかもしれないけど、でも……!」
「ていうかそういうことは早く言って。そこは我慢しなくていいことだし、オレに一番に相談するとこ。違う?」
「……ごめんなさい」
落ち込むわたしに、パンッとヒナタくんが手を叩く。
「ねえ、あれしよ」
「……あれ?」
顔の前でグーチョキパーをするので、じゃんけんホイと言ってみた。
「いや違うから」
とか言う割にチョキ出してるし。負けたし。
『オレ、てっきりあおいが怒ってるものとばかり思ってたんだけど』
『ほへ?』
『だって……あれ何? グーチョキパーって』
『ああ! ははっ、あれね? あれは――……』
「はい。グー出して」
“グーはね、友達とか仲間とか、仲直りの印だよ! 忍者漫画で見たの!”
お互いの拳を、突き合わせる。あれは夢だと思ってたからできたけど、改めてするのはなんか気恥ずかしい。
「オレは完璧殴られるもんだと思ってたよ」
「な、殴る!? しないしない!」
「どうだか。別れる云々に本当は手出したかったんじゃない?」
「それで済むかわかんないよー」
「……」
「タックルした後手足を押さえ付けて、嫌がるヒナタくんのあんなとこやそんなとこ」
「よし、次行こう」
(くすぐったり匂い嗅ぎまくったりしようかなと思っただけなんだどなあ……)
ヒナタくんが「早くチョキ出して」と言うので、それはまた今度の機会に試すことにする。



