すべての花へそして君へ③


 我ながらなんて理由だろうか。こんな回答で納得してもらえるわけがない。
 いやでもそれがわかってしまって、気付けば自嘲するように笑っていた。


「……そうか」


 だから、まさか納得されるとは思っていなかったので拍子抜け。
 隣を通り過ぎていくツバサを、慌てて追い掛けた。


「いや、わかるなと思ったよ」

「おお。さすがツバサ」

「正直、何やらしても俺らよりあいつの方が上だろうし」

「だよねだよね」

「やっぱ兄弟なんだろうな」

「だねーそうだねー」


 横に並ぶと、やっぱり大きかった。身長ももちろんだけれど、兄貴だからか。大きく見えた。
 そんなことを考えていたオレの頭を、ツバサはくしゃっと雑に撫でていった。


「だから俺は、お前の“見栄”がわかるんだろうな」


 それが嘘ではなくても、それに隠した理由があること。それを訊かずにいてくれること。言わずにいてくれること。
 あいつが、兄貴を頼りにした気持ちが、本当によくわかる。


「やっぱすげーね! 兄ちゃんはっ」

「抱きつかなくていいから、お前はさっさと葵に謝ってこい」

「は。なんで」

「全面的にお前が悪いからだ。アイも言ってただろ。ちゃんと話をしろ」

「異議あり。オレはすぐに謝ろうとしましたー。でも全然連絡が取れないのは向こうのせいだしー」

「はあ。葵が今頑張ってるのは? 誰と一緒にいたいからだ。それくらい辛抱強く何回もかけてみ――」

「その日に100回以上かけましたけど」

「……辛抱強く、待ってみろ。あいつがお前から電話もらってて、折り返さないはずないだろ」

「わかんないよ。だってあいつ、けっこうぶち切れてると思うから」

「だから、それはお前の別れよう発言が原因なわけで」

「オレだって怒ってるんだよ。さんざんオレを苦しめたくせに全部知ってたとか何。電話も寄越さないし。何で誰もオレのこと支持してくれないの!」

「お前が全面的に悪いから」

「酷い! ツバサのバカ! もう絶対欲しいって言ってもあいつのブロマイドやらないから!」

「いらねえよ。つうか作んな」


「頼むから、さっさとお前ら仲直りしろよ」と。ツバサはただただオレの文句に、大きなため息を何度も零していたけれど。
 なんだかんだ、オレが満足するまで付き合ってくれたのだった。持つべきものは、兄貴だな、うん。