「だからね、本当に文句なんかないんだよ。ヒナタくんが謝る必要もどこにもない。全部全部、不安にさせたわたしが悪いんだ。ヒナタくんの気持ちを、ちょっとでもわからなくなったわたしが――」
ぐっと背中に体重がかかる。肩口に回ってきた腕は、後ろから強く抱き締めてくる。
優しくて、温かくて。石鹸の香りに、酔いそうにな――
「ま、詰まるところ、オレが隠していたのは意味がなかったと」
「うぐ……」
「加えて、本当はオレの方が隠されていたと」
「は、はい……」
「終いにはあんぽんたんと言われたと。そういうことかな」
「はいっそうです面目な――」
唇が、頬をそっと撫でていった。
「……え」
「おあいこ」
「えっ? で、でも……」
彼が回した腕に、力がこもる。
「もういいよ。ちゃんと、帰ってきたし」
「……ヒナタくん」
「オレも、……いろいろごめん」
その腕に、そっと触れた。
「……許して、くれるの」
「当たり前でしょ」
「……ありがと、ひなたくん」
「オレの方こそ。オレのこと、ちゃんとわかってくれててありがとう。まあ正直自暴自棄になるかと思ったけどね」
「ごっ、ごめんなさい」
「嘘嘘。それは流石に言い過ぎたけど、まあ振り回された感半端ないよね」
「ほんと、なんと言っていいやら」
「いいんだよ。あおいも言ってたけど、多分それだけ考える時間が必要だったんだ。オレにも、それからあおいにも」
「ヒナタくん……」
「だから。……いろんな話をしたよ。いろんな人と、した」
自分の考えていることはおかしいのか。どうするのが、自分にとって相手にとって、正解だったのか。
たくさん。本当にたくさん時間をかけた。周りの人たちが、心底呆れるくらい。
だから、今こうして笑っていられる。あおいの側にいられることが心地よくて、一緒にいられて心底幸せで仕方がないんだよ。
「……ま、最終的にはシントさんに尻叩かれたわけだけど」
「ヒナタくんそこ。そこ、すごい気持ちいー……」
「……っ、あおい。もうちょい緩めて、ちょっと痛い」
「あ、ごめんごめん」
そして気付けば、二人してベッドの上に。んでもって、お互いの足持ってマッサージのし合いっこをしていた。疲れた足に、よく効きます。
……はあ。でもそっか。やっぱりあれは、夢でも記憶が捏造されたわけでもなく、現実だったのね。確かに、ヒナタくんに会えたのは嬉しかったけど……。
「オレも、行っていろいろ後悔することはあったんだけどさ」
「え。こ、後悔してるの?」
「それ以上に得たものも多かったし、何より情緒不安定甘えん坊のあおいちゃんが可愛かっ……いって!」
「はっ! ご、ごめん!」



