すべての花へそして君へ③


「だからね、本当に文句なんかないんだよ。ヒナタくんが謝る必要もどこにもない。全部全部、不安にさせたわたしが悪いんだ。ヒナタくんの気持ちを、ちょっとでもわからなくなったわたしが――」


 ぐっと背中に体重がかかる。肩口に回ってきた腕は、後ろから強く抱き締めてくる。
 優しくて、温かくて。石鹸の香りに、酔いそうにな――


「ま、詰まるところ、オレが隠していたのは意味がなかったと」

「うぐ……」

「加えて、本当はオレの方が隠されていたと」

「は、はい……」

「終いにはあんぽんたんと言われたと。そういうことかな」

「はいっそうです面目な――」


 唇が、頬をそっと撫でていった。


「……え」

「おあいこ」

「えっ? で、でも……」


 彼が回した腕に、力がこもる。


「もういいよ。ちゃんと、帰ってきたし」

「……ヒナタくん」

「オレも、……いろいろごめん」


 その腕に、そっと触れた。


「……許して、くれるの」

「当たり前でしょ」

「……ありがと、ひなたくん」

「オレの方こそ。オレのこと、ちゃんとわかってくれててありがとう。まあ正直自暴自棄になるかと思ったけどね」

「ごっ、ごめんなさい」

「嘘嘘。それは流石に言い過ぎたけど、まあ振り回された感半端ないよね」

「ほんと、なんと言っていいやら」

「いいんだよ。あおいも言ってたけど、多分それだけ考える時間が必要だったんだ。オレにも、それからあおいにも」

「ヒナタくん……」

「だから。……いろんな話をしたよ。いろんな人と、した」


 自分の考えていることはおかしいのか。どうするのが、自分にとって相手にとって、正解だったのか。
 たくさん。本当にたくさん時間をかけた。周りの人たちが、心底呆れるくらい。

 だから、今こうして笑っていられる。あおいの側にいられることが心地よくて、一緒にいられて心底幸せで仕方がないんだよ。


「……ま、最終的にはシントさんに尻叩かれたわけだけど」

「ヒナタくんそこ。そこ、すごい気持ちいー……」

「……っ、あおい。もうちょい緩めて、ちょっと痛い」

「あ、ごめんごめん」


 そして気付けば、二人してベッドの上に。んでもって、お互いの足持ってマッサージのし合いっこをしていた。疲れた足に、よく効きます。
 ……はあ。でもそっか。やっぱりあれは、夢でも記憶が捏造されたわけでもなく、現実だったのね。確かに、ヒナタくんに会えたのは嬉しかったけど……。


「オレも、行っていろいろ後悔することはあったんだけどさ」

「え。こ、後悔してるの?」

「それ以上に得たものも多かったし、何より情緒不安定甘えん坊のあおいちゃんが可愛かっ……いって!」

「はっ! ご、ごめん!」