「シズルさんがわたしの知らないところでヒナタくんにあんな意味深メールを送ったのはきっと、わたしがそんな顔をしてたせいだ」
「それはなんとなくわかってたよ」
「……そっか。わかってたか」
「でも悪いけど、別れてそのままにしとくつもりはさらさら無かったからね」
「わたしの見えないところで、頑張ろうとしてたのは気付いてたよ。でもそれは内緒にしとくことじゃないし、そこで捻くれはいらないよね」
「……ごめん」
「あ、謝っちゃやだよ冗談だよ。そんなの、わたしの方が何倍もヒナタくんのこと不安にさせたし、そのせいでこうなったんだもん」
「あおいのせいばっかりじゃないよ。大丈夫、ちゃんとわかってる」
『素直になれないのはオレの悪い癖で、そんなところをあんたはいいって言ってくれたけど。でも、だからってあんたに甘えていいわけじゃない。全部をわかってくれるって、丸投げしていいわけじゃない』
――今のオレにはできなくても、いろんなこと、少しずつでもこれからはできるようになる。オレはそのつもりでいる。
「っと。ごめん、ちょっと腕捲ってくんない?」
「……え? 何ごめん、聞いてなかった」
「袖。濡れそうだから」
「お、おお。お任せを」
洗い物が終わったところで、垂れてきた袖を捲り上げてあげる。
ヒナタくんは、シンクを洗っていた。それを一度横目で見つめてから、わたしは拭き終わった食器を片付ける。
【今ならちゃんと受け止められると思う】
「にしてもつくづく馬鹿だよね、オレらって。一人で悩んだって、どうしようもないじゃんね」
「……うん」
「知りたいのは相手のことなのに。二人のことなのに。ま、オレの場合はあの意味深なメールのせいで立ち往生してたわけだけど」
「ねえ、ヒナタくん」
「ん? ……何?」
「何回かね、考えたことがあるの」
ヒナタくんと隣に並んで、バリバリに仕事をしてる未来とか。それこそ、お別れした未来とか。
もしかしたら、そうするのが本当の道筋なのかもって。
「ひ、ヒナタくん痛い。背中が痛いよ」
「ふーん、よくわかってるじゃん」
背中に物凄い怖い視線が、ブスブスと刺さっているのを感じながら、それでもわたしは続けて言葉を紡いだ。
「わたしの運命はきっとね、あの時海の中でとうに終わってたんだよ」
それを、たくさんの人にねじ曲げてもらったんだ。助けてもらったんだ。手を伸ばしてもらったんだ。背中を、押してもらったんだ。
だからね、別に卑屈になってるわけじゃないんだ。わたしには、君に誓ったことがあるから。
「だから、たとえそれが、神様の決めた運命だったとしても。わたしは、わたしがしたいようにするんだ。胸を張って、歩いて行くために」
「……そっか」
そして何より大切な君を、幸せにする。
君の笑顔を、守るよ。絶対に。



