すべての花へそして君へ③


『触れたくなるから』『我慢利かなくなるから』
 君が距離を取りたいと言った言葉は、全部が本当じゃなくて、全部が嘘じゃない。そして、一番優先した理由じゃない。


(一緒にいる場合が、最良じゃないこともあるからね)


 どうあるべきか。どうするべきか。
 時間が必要だった。君にもわたしにも。


「文句」

「へ?」

「あるでしょ、いろいろ」

「え。別に、特には……」

「何でもいいよ、言ってよ」

「いや、本当に何もないんだけど。寧ろあるのはヒナタくんの方じゃ……」

「……じゃあ、あの時のは」

「あの時?」


【ヒナタくんが、変わってしまったと思った】


「よかったら詳しく、聞かせてくれない?」

「……些細なことだよ。気にしなくていい」

「知っておくべきだと思うし、今ならちゃんと受け止められると思う。これからこんなこと、度々あるって考えるだけでおぞましいし」

「な、ないよ。もうないよ。考えるからおぞましいんだよ」

「教えて。聞かせて」


 断固として折れようとしないヒナタくんに、少し困ってしまった。少しなのは、そう言ってくれて、嬉しい気持ちもあるからだろう。


「あの時言ったでしょう? 人は、日々成長していくものなんだって。だからわたしは」

「オレは納得してないって言った」

「……え。それってお胸さんについてじゃなかったの?」

「理由は半々」


 半分もあるんかい。
 ……折れるのは、わたしの方か。


「時間が解決してくれることもあるけど、その逆もあるんだなって。ちょっと、思い知ったかな」


 君が、わたしに残された未来の選択を知った。君は、わたしに普通の高校生として過ごせる時間をくれた。けれど、時間が経つにつれ君の苦しさやつらさは増すばかり。


「酷い顔、してたから。自覚、あるでしょ」

「あるけど、隠してたつもりだった」

「残念。わたし、ヒナタくんのこと大好きだから。だからわかっちゃうんだなあこれが」

「……そっか」


 つらそうにしているのを見ていたくなかった。それを、打ち明けて欲しいと思った。でも却って余計、君を苦しめてしまった。泣かせてしまった。

 結局、君が選んだのは【別れ】だったけれど。


「もちろん、意地や見栄だって気付いてたよ。とんでもないものを一緒に背負わせてしまったかなって。やっぱり少しの後悔と不安を、抱えたことはあるかな」


 距離を取って、不安になった。寂しさで吐き気がしたこともあったし、情緒不安定でちょっとしたことで涙が出てくることもあった。そして時間が経つにつれ、よくわからなくなった。

 本当に彼が隠しているのは、そのことなのか。もっと何か、別のことなんじゃないか。本当に別れた方が、ヒナタくんのためになるんじゃないか。
 何も考えたくなくて、無我夢中で仕事をしていたこともある。