『触れたくなるから』『我慢利かなくなるから』
君が距離を取りたいと言った言葉は、全部が本当じゃなくて、全部が嘘じゃない。そして、一番優先した理由じゃない。
(一緒にいる場合が、最良じゃないこともあるからね)
どうあるべきか。どうするべきか。
時間が必要だった。君にもわたしにも。
「文句」
「へ?」
「あるでしょ、いろいろ」
「え。別に、特には……」
「何でもいいよ、言ってよ」
「いや、本当に何もないんだけど。寧ろあるのはヒナタくんの方じゃ……」
「……じゃあ、あの時のは」
「あの時?」
【ヒナタくんが、変わってしまったと思った】
「よかったら詳しく、聞かせてくれない?」
「……些細なことだよ。気にしなくていい」
「知っておくべきだと思うし、今ならちゃんと受け止められると思う。これからこんなこと、度々あるって考えるだけでおぞましいし」
「な、ないよ。もうないよ。考えるからおぞましいんだよ」
「教えて。聞かせて」
断固として折れようとしないヒナタくんに、少し困ってしまった。少しなのは、そう言ってくれて、嬉しい気持ちもあるからだろう。
「あの時言ったでしょう? 人は、日々成長していくものなんだって。だからわたしは」
「オレは納得してないって言った」
「……え。それってお胸さんについてじゃなかったの?」
「理由は半々」
半分もあるんかい。
……折れるのは、わたしの方か。
「時間が解決してくれることもあるけど、その逆もあるんだなって。ちょっと、思い知ったかな」
君が、わたしに残された未来の選択を知った。君は、わたしに普通の高校生として過ごせる時間をくれた。けれど、時間が経つにつれ君の苦しさやつらさは増すばかり。
「酷い顔、してたから。自覚、あるでしょ」
「あるけど、隠してたつもりだった」
「残念。わたし、ヒナタくんのこと大好きだから。だからわかっちゃうんだなあこれが」
「……そっか」
つらそうにしているのを見ていたくなかった。それを、打ち明けて欲しいと思った。でも却って余計、君を苦しめてしまった。泣かせてしまった。
結局、君が選んだのは【別れ】だったけれど。
「もちろん、意地や見栄だって気付いてたよ。とんでもないものを一緒に背負わせてしまったかなって。やっぱり少しの後悔と不安を、抱えたことはあるかな」
距離を取って、不安になった。寂しさで吐き気がしたこともあったし、情緒不安定でちょっとしたことで涙が出てくることもあった。そして時間が経つにつれ、よくわからなくなった。
本当に彼が隠しているのは、そのことなのか。もっと何か、別のことなんじゃないか。本当に別れた方が、ヒナタくんのためになるんじゃないか。
何も考えたくなくて、無我夢中で仕事をしていたこともある。



