パジャマは、おニューのスウェットを貸してくれたらしい。そんなお気遣いよろしかったのに。寧ろそれこそ、わたしが置いていった服が……あれ、おーい。ヒナタくん??
「だいぶデカいね」
「ん? うん、ぶかぶか」
「……」
「ズボンずれちゃうよ。引き摺っちゃうけど、本当にいいの?」
「いいの。それにはいろいろロマンが詰まってるから」
「そ、そう?」
よく見たら、色が違うだけで今ヒナタくんが着ているスウェットと同じだった。ヒナタくん、ここのメーカーの好きなのかな? 何気にペアルックみたいでちょっと嬉しい。
「……オレはさ」
スポンジを泡立てながら、彼が口を開く。
「理不尽だなって、思ったよ」
「……どうして?」
「どこまで苦しめれば気が済むんだって。替われるもんなら替わりたいって」
「……うん」
彼が洗った食器を、拭く手に僅かに力が入る。多分ヒナタくんの手にも。さっきから食器のぶつかる音に遠慮がなくなってる。
「憎んだって恨んだって、どうしようもないってわかってるけど、それにしても酷すぎるでしょ。なんであおいばっかりがつらい目に遭わないといけないの」
「だから、代わりに泣いてくれたんだもんね」
「……」
「わたしが泣かないもんだから」
「ええ本当に」
「ふふ。ありがと」
片付けをしながら、ヒナタくんの話を聞いた。いろんなこと。
選択を、どう思ったのか。すでに聞いてしまったけど、稽古をしてた本当の理由。それから、シントとの約束。アイくんとの約束。
そして……。
「怖い思いさせてごめんなんだけど、なんであの人わたしの知らないところでヒナタくんに会ってるの。わたしのヒナタくんにいろいろしてくれちゃってんの。ヒナタくんをいじめていいのはわたしだけの特権なのに」
「そんな特権やった覚えないけど」
「ちょっと今度お灸据えておくね」
「うん。それについてはキツめによろしく」
シズルさんのこと。ま、なんだかんだで気に入られているみたいだけど。でも、それとこれとは話が別だ。報連相を疎かにしたこと、きちんと反省してもらわないと。
それから、たくさん考えて。考えて考えて、考え抜いて。
「……あの、さ」
「ん?」
「ちょっと、見栄張りました」
「……ふむ。ちょっととな?」
「あと、格好付けたかったんです」
「格好、付いてなかったけど?」
「わかってますごめんなさい」
「ふふっ」
……わたしと、距離を取ることにしたんだよね。



