すべての花へそして君へ③


 パジャマは、おニューのスウェットを貸してくれたらしい。そんなお気遣いよろしかったのに。寧ろそれこそ、わたしが置いていった服が……あれ、おーい。ヒナタくん??


「だいぶデカいね」

「ん? うん、ぶかぶか」

「……」

「ズボンずれちゃうよ。引き摺っちゃうけど、本当にいいの?」

「いいの。それにはいろいろロマンが詰まってるから」

「そ、そう?」


 よく見たら、色が違うだけで今ヒナタくんが着ているスウェットと同じだった。ヒナタくん、ここのメーカーの好きなのかな? 何気にペアルックみたいでちょっと嬉しい。



「……オレはさ」


 スポンジを泡立てながら、彼が口を開く。


「理不尽だなって、思ったよ」

「……どうして?」

「どこまで苦しめれば気が済むんだって。替われるもんなら替わりたいって」

「……うん」


 彼が洗った食器を、拭く手に僅かに力が入る。多分ヒナタくんの手にも。さっきから食器のぶつかる音に遠慮がなくなってる。


「憎んだって恨んだって、どうしようもないってわかってるけど、それにしても酷すぎるでしょ。なんであおいばっかりがつらい目に遭わないといけないの」

「だから、代わりに泣いてくれたんだもんね」

「……」

「わたしが泣かないもんだから」

「ええ本当に」

「ふふ。ありがと」


 片付けをしながら、ヒナタくんの話を聞いた。いろんなこと。
 選択を、どう思ったのか。すでに聞いてしまったけど、稽古をしてた本当の理由。それから、シントとの約束。アイくんとの約束。

 そして……。


「怖い思いさせてごめんなんだけど、なんであの人わたしの知らないところでヒナタくんに会ってるの。わたしのヒナタくんにいろいろしてくれちゃってんの。ヒナタくんをいじめていいのはわたしだけの特権なのに」

「そんな特権やった覚えないけど」

「ちょっと今度お灸据えておくね」

「うん。それについてはキツめによろしく」


 シズルさんのこと。ま、なんだかんだで気に入られているみたいだけど。でも、それとこれとは話が別だ。報連相を疎かにしたこと、きちんと反省してもらわないと。

 それから、たくさん考えて。考えて考えて、考え抜いて。


「……あの、さ」

「ん?」

「ちょっと、見栄張りました」

「……ふむ。ちょっととな?」

「あと、格好付けたかったんです」

「格好、付いてなかったけど?」

「わかってますごめんなさい」

「ふふっ」


 ……わたしと、距離を取ることにしたんだよね。