すべての花へそして君へ③


 それは脱衣所まででなく、浴室に入っても、浴槽に浸かっても続いた。


「……んあ。はあ……っ」

「こっち向いて。キスして」

「……ひなた、くん……」

「……うん」


 耳元から、彼の熱が離れていく。
 頭が、ぼーっとする。湯中りしたのかな。酸欠、だからかな。……あれ、そもそも何で酸欠なんだっけ。

 ちゃぷんと、水が跳ねる音がする。お腹に、誰かの手が触れた。僅かに引き寄せられる。


「……あおい」


 頬から耳元へ、向かせるように手が添えられる。
 待てないよと。優しく唇を奪われた。

 ……ああ、そうだ。
 何かもう、キャパオーバーで。にもかかわらず、ヒナタくんに攻められたんだった。肩先まで、大変なことになってるんだろうな。許可した時点でわかってたけど。


「のぼせた?」

「……そ、そうね」

「そっか。ごめんね」

「あ、謝ること、ないよ。前にも、言ったでしょう……?」

「……前?」

「何か思ってるのに、何もない方が不安って」


『もちろん、素直に言葉で言ってきてくれてもいいし、言いたくないことなら……嫌なことなら、八つ当たりだってしてきていいんだ』


「それくらい。ヒナタくんを受け止められないほど、わたしは柔じゃないよって。覚えてる?」


 預けた体から顔を上げようとすると、力の入らないわたしの体を彼は優しく抱き締めた。

 そうだ。……そうだったねと、小さな声。ちょっと、嬉しそうな声。



「先に言っておくけど、予想の範囲内だったからね」


 と、腰にタオルを巻いたヒナタくんが、拗ねた顔して言った。
 人のことスッポンポンにしておいて、自分だけなんかズルいぞ。


「えーっと、わたしがしてた仕事のこと?」

「そう。流石に、何してたのかまではわかんないけど」

「うん」

「……何か、大事なことをしているんだろうなってことは、わかってたから」

「そっか」

「だから、今途轍もない恐怖を感じている」

「え。なんで?」

「今までの経験上、予想の範囲内で収まることって絶対にないんだよ」

「そ、そう……?」

「だから、どんだけのことをやらかしているのか。オレはきっと、今夜も寝られそうにない」


 そ、そんなになるまで、いろんなことやらかしてきたかしらわたし。
 ……うん。身に覚えがありすぎてわたしも怖い。