それは脱衣所まででなく、浴室に入っても、浴槽に浸かっても続いた。
「……んあ。はあ……っ」
「こっち向いて。キスして」
「……ひなた、くん……」
「……うん」
耳元から、彼の熱が離れていく。
頭が、ぼーっとする。湯中りしたのかな。酸欠、だからかな。……あれ、そもそも何で酸欠なんだっけ。
ちゃぷんと、水が跳ねる音がする。お腹に、誰かの手が触れた。僅かに引き寄せられる。
「……あおい」
頬から耳元へ、向かせるように手が添えられる。
待てないよと。優しく唇を奪われた。
……ああ、そうだ。
何かもう、キャパオーバーで。にもかかわらず、ヒナタくんに攻められたんだった。肩先まで、大変なことになってるんだろうな。許可した時点でわかってたけど。
「のぼせた?」
「……そ、そうね」
「そっか。ごめんね」
「あ、謝ること、ないよ。前にも、言ったでしょう……?」
「……前?」
「何か思ってるのに、何もない方が不安って」
『もちろん、素直に言葉で言ってきてくれてもいいし、言いたくないことなら……嫌なことなら、八つ当たりだってしてきていいんだ』
「それくらい。ヒナタくんを受け止められないほど、わたしは柔じゃないよって。覚えてる?」
預けた体から顔を上げようとすると、力の入らないわたしの体を彼は優しく抱き締めた。
そうだ。……そうだったねと、小さな声。ちょっと、嬉しそうな声。
「先に言っておくけど、予想の範囲内だったからね」
と、腰にタオルを巻いたヒナタくんが、拗ねた顔して言った。
人のことスッポンポンにしておいて、自分だけなんかズルいぞ。
「えーっと、わたしがしてた仕事のこと?」
「そう。流石に、何してたのかまではわかんないけど」
「うん」
「……何か、大事なことをしているんだろうなってことは、わかってたから」
「そっか」
「だから、今途轍もない恐怖を感じている」
「え。なんで?」
「今までの経験上、予想の範囲内で収まることって絶対にないんだよ」
「そ、そう……?」
「だから、どんだけのことをやらかしているのか。オレはきっと、今夜も寝られそうにない」
そ、そんなになるまで、いろんなことやらかしてきたかしらわたし。
……うん。身に覚えがありすぎてわたしも怖い。



