すべての花へそして君へ③


 確かにあいつは、選んだ道についてはまだ言えないと言った。話を聞く限り、完全に警察の手足になっていそうだけど。

 ――じゃあ、なんでそれを、わざわざあのナンパ野郎を呼んでまで話そうとしたか、だ。

 答えは簡単。どちらも選んでいないから。


「先生の話だと、あいつの二択の未来は高校卒業後。だからまだ、あいつは選んでいないよ」

「……自分の未来を知った葵が、時期を早めた可能性は」

「それも考えたけど、だったら余計隠しておかないと思う」

「だったら今、葵がしてることは……」


 二択の回避、または減刑。そのどちらかだ。
 あいつはちゃんと、オレといられる未来を考えてくれている。


「だから、別れないよ。絶対」


 オレが信じてやらなくて、誰があいつのこと、信じてやるんだ。


「そっか。じゃあそのことは、また葵と話をしような」


 と、手を叩いた兄貴はふっと優しく相好を崩したかと思ったら、「で」とギロリ、こちらを睨んできた。


「なんで別れるって結論になったか。訊かせてもらおうか」

「……それまた掘り返すの?」

「俺が納得するまで掘り返す」

「えー」


 理由は、引っくるめれば一つしかない。


「……オレが、弱いからだよ」


 いつまでかわからない。帰ってこられるかもわからない。
 そんな未来を聞いて、つらくならないはずがない。


「それは知ってる」

「酷い」

「いやお前に限った話じゃなくて。人間誰しも弱いだろ。いきなり彼女のそんな話聞かされて、不安にならない方が可笑しい」

「……じゃあ何が訊きたいの」

「なんで“葵みたいになりたい”なんて言った」

「オレの中の最強だから」

「そりゃ俺の中でも最強だわ。けど、今訊いてるのはそういうことじゃない。言われなかったのか、稽古を頼んだときに。花咲さんに」

「……言われたね」


“――君があいつを守りたいと思っているのは、昔っからよくわかってる。けどな、あいつよりも強くなりたいなんて目標は、最初から捨てていた方がいい――”


「じゃあなんで言った。葵にも言われたんだろ?」

「……それは」


 歩みを止めたオレは、ゆっくりと天を仰いだ。
 ほんのり薄い雲がかかった月は、どうしてか、笑って許してくれているように見えた。


「……男の意地。あと、見栄かな」

「……は」

「あいつが帰ってきたときに、何か、あいつよりもできてることが増えてたらいいなって」

「……」


 ……そんな風に、思ったんだよね。