確かにあいつは、選んだ道についてはまだ言えないと言った。話を聞く限り、完全に警察の手足になっていそうだけど。
――じゃあ、なんでそれを、わざわざあのナンパ野郎を呼んでまで話そうとしたか、だ。
答えは簡単。どちらも選んでいないから。
「先生の話だと、あいつの二択の未来は高校卒業後。だからまだ、あいつは選んでいないよ」
「……自分の未来を知った葵が、時期を早めた可能性は」
「それも考えたけど、だったら余計隠しておかないと思う」
「だったら今、葵がしてることは……」
二択の回避、または減刑。そのどちらかだ。
あいつはちゃんと、オレといられる未来を考えてくれている。
「だから、別れないよ。絶対」
オレが信じてやらなくて、誰があいつのこと、信じてやるんだ。
「そっか。じゃあそのことは、また葵と話をしような」
と、手を叩いた兄貴はふっと優しく相好を崩したかと思ったら、「で」とギロリ、こちらを睨んできた。
「なんで別れるって結論になったか。訊かせてもらおうか」
「……それまた掘り返すの?」
「俺が納得するまで掘り返す」
「えー」
理由は、引っくるめれば一つしかない。
「……オレが、弱いからだよ」
いつまでかわからない。帰ってこられるかもわからない。
そんな未来を聞いて、つらくならないはずがない。
「それは知ってる」
「酷い」
「いやお前に限った話じゃなくて。人間誰しも弱いだろ。いきなり彼女のそんな話聞かされて、不安にならない方が可笑しい」
「……じゃあ何が訊きたいの」
「なんで“葵みたいになりたい”なんて言った」
「オレの中の最強だから」
「そりゃ俺の中でも最強だわ。けど、今訊いてるのはそういうことじゃない。言われなかったのか、稽古を頼んだときに。花咲さんに」
「……言われたね」
“――君があいつを守りたいと思っているのは、昔っからよくわかってる。けどな、あいつよりも強くなりたいなんて目標は、最初から捨てていた方がいい――”
「じゃあなんで言った。葵にも言われたんだろ?」
「……それは」
歩みを止めたオレは、ゆっくりと天を仰いだ。
ほんのり薄い雲がかかった月は、どうしてか、笑って許してくれているように見えた。
「……男の意地。あと、見栄かな」
「……は」
「あいつが帰ってきたときに、何か、あいつよりもできてることが増えてたらいいなって」
「……」
……そんな風に、思ったんだよね。



