都内某所にて。
『――割に合いませんよね? どう考えたって』
コズエ先生に粗方事情を聞いたわたしは、挨拶もそこそこに本題を切り出していた。何分時間がもったいないのだ。
だって! 普通なら! 普通のJKなら! 今頃彼氏とラブラブチュッチュの、素敵なAfter ENDを迎えてる頃でしょう!
罪状は理解した。わたしが代わりに背負うことも受け入れよう。元よりそのつもりだ、だって彼女はわたしのために何度も頑張ってくれたんだ。今度はわたしが返す番だもの。
だからって、なんでそんな選択肢になるわけ? それについては納得いかん。異議申し立てじゃあ!
『これは上で既に決定された事項。貴様の希望を耳に入れる筋合いもない』
そして、この時代に“貴様”とか普通に使っちゃってるお偉い様は、二本の指でわたしの残された道を示した。
『前は肩代わり』
――牢屋か。
『後は労働』
――奴隷か。
堪ったもんじゃない。わたしを扱き使っていいのは、そんなこと冗談で言っていいのは一人だけだ。貴方達じゃない。
でも聞く耳持たないってんなら、別の方向で攻めるしかない。
『決まっているのなら選べ。後悔しても――』
『後者に決まってんでしょうよ。貴方バカですか。すっからかんなんですかねえ頭の中』
『あ、あおいちゃん? ちょっと落ち着きましょうか』
『だってだって! 当たり前のこと聞いてくるから、正直頭の中可笑しいんじゃないかと』
『大丈夫。それについては私、同じくらい……いやそれ以上頭の可笑しい子知ってるから』
『……それ、わたしのことですよね。目がちょっと怖いです先生……』
どうやら、後々が恐ろしいことになるようだ。コズエ先生の血走った目に、取り敢えず向けた怒りの矛は納めておいた。
『……朝日向葵』
『あ、はい』
『今一度問おう。その選択に後悔は』
『選択に後悔はありません。ただ疑問があります』
『それに答えてやる義理はない。私は次の仕事に移る。雨宮、お前の処遇はそのあとだ』
『わ、わかりました』
一礼をして、『私ではどうすることもできなくて』と、申し訳なさそうに、でも少し嬉しそうに笑ったコズエ先生は、静かに部屋を出て行く。
暫く、彼女が廊下を歩く音が響いていた。
『何をしている』
『え?』
『貴様もさっさと出て行け。仕事の邪魔だ』
『……疑問に答えてください』
『この件は既に終え、用は済んだ。とっとと立ち去れ』
『選択肢に時間が設けられていなかったのは何故ですか』
『答える義理はない。三度目はない。弁えよ』
『“無期限”でわたしに死力を尽くせと。わたしのこれからの未来全てを渡せと?』
『これ以上口を出してみろ。私にも考えが』
『わたしの未来です! それを知る権利は十分あるし、口答えする資格だって、存分にあると思うんですけどおッ!?』



