大きめのグラスにお酒を注いであげる。今回は、半分よりちょっと少なめかな。
「いやー、ついついね」
いい具合に水やら炭酸やらでお酒を割りながら、ごめんごめんと謝る彼は、それはそれは楽しそうに笑っていた。
でも、お酒の力でじゃないんだね。知ってるよ。お水の量ちょっとずつ増やしてること。間にこっそり緑茶も入れてること。
「そうだな。大体は知ってるけど、オレも知らないことあるからさ」
「……ありがとう」
「ん?」
「待っててくれて」
そっと手に触れると、見透かして欲しくないのか僅かに震えた。顔はまだお酒のおかげでほんのり赤いのに、冷たかった。
……ああやっぱり、心から笑えるようになったのは間違いじゃないけど、そう見えてまだ、緊張してるんだね。
「わたしのこと、自分のこと、それから二人のこれからのこと。一生懸命考えてくれたね」
「それは、あんたもでしょ。バカ」
「わたし? わたしは結構、自分がやりたいことやりたいようにやらせてもらっちゃった」
「……オレだけいつも悩み損じゃない?」
「でもそうできたのはきっと、ヒナタくんがわたしのこと、“ちゃんと待っていてくれたから”だよ」
「――――」
一瞬息を呑んだあと気まずそうに顔を逸らした彼に、思わず苦笑い。
「い、いや。さすがにあんなこと言っておいて、ちゃんと待ってたとは……」
「“わからないと思ったでしょ”」
【素直になれないのはオレの悪い癖で、そんなところをあんたはいいって言ってくれたけど――】
「…………え。え?」
「“気付いてないと思ってたでしょ”」
待ってるの、嫌だったよね。泣くほど、夢に魘されるほど、怖かったよね。
でも君は、君なりにできること考えて、そして待っていてくれた。
「……あ、あおいさん? ちょっと待っ――」
「“だから、まだ気付いていないんでしょう?”」
「な。何を、でしょうか」
「見栄っ張り。格好付け。強情。捻くれ野郎」
身に覚えがありすぎるのだろう。ヒナタくんは、頭を抱えていた。
「はは。マジ、何も隠し事できないじゃん」
「……ごめんね」
「それ、何」
「……え?」
しかしすぐ飛んできたその声は視線は、怒りを孕んでいた。
「何に対しての“ごめん”なの。場合によっちゃ、マジで怒るよ」
「……ううん。怒ることじゃないよ。ただ、黙っててごめんねって、言いたかったの」
本音を言うと、君が怒る“ごめん”もあるけれど。それは、わたしの中に止めておこう。怒らせたらね、何されるかわかんないから。
「それから。待っててくれて、ありがとう」
わたしのこと、信じてくれて。
だからわたしは、帰ってこられたんだよ。
「……オレは、正直何もしてないに等しいんだけど」
「そんなことないよ! ほんと、ありがとう」
――ありがとう。
普通にはなれないわたしを、ずっと愛してくれていて。



