すべての花へそして君へ③


 大きめのグラスにお酒を注いであげる。今回は、半分よりちょっと少なめかな。


「いやー、ついついね」


 いい具合に水やら炭酸やらでお酒を割りながら、ごめんごめんと謝る彼は、それはそれは楽しそうに笑っていた。
 でも、お酒の力でじゃないんだね。知ってるよ。お水の量ちょっとずつ増やしてること。間にこっそり緑茶も入れてること。


「そうだな。大体は知ってるけど、オレも知らないことあるからさ」

「……ありがとう」

「ん?」

「待っててくれて」


 そっと手に触れると、見透かして欲しくないのか僅かに震えた。顔はまだお酒のおかげでほんのり赤いのに、冷たかった。
 ……ああやっぱり、心から笑えるようになったのは間違いじゃないけど、そう見えてまだ、緊張してるんだね。


「わたしのこと、自分のこと、それから二人のこれからのこと。一生懸命考えてくれたね」

「それは、あんたもでしょ。バカ」

「わたし? わたしは結構、自分がやりたいことやりたいようにやらせてもらっちゃった」

「……オレだけいつも悩み損じゃない?」

「でもそうできたのはきっと、ヒナタくんがわたしのこと、“ちゃんと待っていてくれたから”だよ」

「――――」


 一瞬息を呑んだあと気まずそうに顔を逸らした彼に、思わず苦笑い。


「い、いや。さすがにあんなこと言っておいて、ちゃんと待ってたとは……」

「“わからないと思ったでしょ”」


【素直になれないのはオレの悪い癖で、そんなところをあんたはいいって言ってくれたけど――】


「…………え。え?」

「“気付いてないと思ってたでしょ”」


 待ってるの、嫌だったよね。泣くほど、夢に魘されるほど、怖かったよね。
 でも君は、君なりにできること考えて、そして待っていてくれた。


「……あ、あおいさん? ちょっと待っ――」

「“だから、まだ気付いていない(、、、、、、、、、)んでしょう?”」

「な。何を、でしょうか」

「見栄っ張り。格好付け。強情。捻くれ野郎」


 身に覚えがありすぎるのだろう。ヒナタくんは、頭を抱えていた。


「はは。マジ、何も隠し事できないじゃん」

「……ごめんね」

「それ、何」

「……え?」


 しかしすぐ飛んできたその声は視線は、怒りを孕んでいた。


「何に対しての“ごめん”なの。場合によっちゃ、マジで怒るよ」

「……ううん。怒ることじゃないよ。ただ、黙っててごめんねって、言いたかったの」


 本音を言うと、君が怒る“ごめん”もあるけれど。それは、わたしの中に止めておこう。怒らせたらね、何されるかわかんないから。


「それから。待っててくれて、ありがとう」


 わたしのこと、信じてくれて。
 だからわたしは、帰ってこられたんだよ。


「……オレは、正直何もしてないに等しいんだけど」

「そんなことないよ! ほんと、ありがとう」


 ――ありがとう。

 普通にはなれないわたしを、ずっと愛してくれていて。