すべての花へそして君へ③


 トンと、頭が重くなる。逃がさないよとでも言うように、台所に両手をついて、背中に甘えるように軽くもたれてくる。


「……ね?」

「あ、危ないからヒナタくん……」

「スルーしないで、寂しいから」

「す、スルーさせるような話振らないで、お願いだから」


 頭に乗っていた彼の頭が、肩に降りてくる。耳元がくすぐったい。


「話、するんでしょ? たくさん」

「……えっ」

「え? しないの?」

「す、するよー! もちろんだとも!」

「あー。あおいちゃん今何考えてたのかな」

「べ、別に何も……」

「じゃあなんで耳真っ赤なの? ねえ、教えてよ」

「ヒナタくん、意地悪だよ」

「わかってたでしょう?」

「わかってたけど」

「そんなオレが好きなんでしょう?」

「ええそうです。その通りです」

「じゃあ何考えてたの? 変態なこと?」

「ええそうですよ! 悪かったですね!」

「…………」

(え。ここでスルーするの? スルーされたら寂しいの、君の方がよく知ってるんじゃないの……?)


 何の反応もいただけないまま、彼は床下収納らしき戸を開け、「梅酒か……いや、これまだそうだな。あとなんか……これは? おお漬け物か、いいね。あと確かここにスルメとホタテのヒモが……」って何かぶつくさ言ってるけど、やっぱりチョイスがもう男子高校生ではない。


「ま、こんくらいあれば十分いいつまみになるかな」

「……」

「……そんなむすっとした顔しないでよ。別にスルーしてたわけじゃないんだって。ただ、返答考えてなくてちょっと悩んでいたというか」

「そうか。それで? 答えは出たのか」

「ん? ……うん。まあぼちぼち」

「乙女に恥じかかせた責任取ってくれるんだよね」

「もちろん。今日は一緒のベッドで寝ようね」

(ピュアピュア笑顔だなあ……)


 対応策ができているはずもなく。というか拒否する理由もなく。それについてはひとつ、うんと頷いておいた。
 ていうか、話しようって言ってどれだけ時間経ったか知ってる? いい加減本当に腰据えて話をしようよ。


「んー。枝豆塩加減いい感じ。この味噌マヨ七味? スルメと相性バッチリなんだけど。酒が進む進む」

「あ、そう? それはよかっ」

「デザートは……ないけど、まあいいよね。ベッドの上でいただけば」

「ちょっと、話の腰折らないで」


 そこまで素直にならなくていいんです。まだ対応できないので、その辺はまたゆっくりでお願いします。