トンと、頭が重くなる。逃がさないよとでも言うように、台所に両手をついて、背中に甘えるように軽くもたれてくる。
「……ね?」
「あ、危ないからヒナタくん……」
「スルーしないで、寂しいから」
「す、スルーさせるような話振らないで、お願いだから」
頭に乗っていた彼の頭が、肩に降りてくる。耳元がくすぐったい。
「話、するんでしょ? たくさん」
「……えっ」
「え? しないの?」
「す、するよー! もちろんだとも!」
「あー。あおいちゃん今何考えてたのかな」
「べ、別に何も……」
「じゃあなんで耳真っ赤なの? ねえ、教えてよ」
「ヒナタくん、意地悪だよ」
「わかってたでしょう?」
「わかってたけど」
「そんなオレが好きなんでしょう?」
「ええそうです。その通りです」
「じゃあ何考えてたの? 変態なこと?」
「ええそうですよ! 悪かったですね!」
「…………」
(え。ここでスルーするの? スルーされたら寂しいの、君の方がよく知ってるんじゃないの……?)
何の反応もいただけないまま、彼は床下収納らしき戸を開け、「梅酒か……いや、これまだそうだな。あとなんか……これは? おお漬け物か、いいね。あと確かここにスルメとホタテのヒモが……」って何かぶつくさ言ってるけど、やっぱりチョイスがもう男子高校生ではない。
「ま、こんくらいあれば十分いいつまみになるかな」
「……」
「……そんなむすっとした顔しないでよ。別にスルーしてたわけじゃないんだって。ただ、返答考えてなくてちょっと悩んでいたというか」
「そうか。それで? 答えは出たのか」
「ん? ……うん。まあぼちぼち」
「乙女に恥じかかせた責任取ってくれるんだよね」
「もちろん。今日は一緒のベッドで寝ようね」
(ピュアピュア笑顔だなあ……)
対応策ができているはずもなく。というか拒否する理由もなく。それについてはひとつ、うんと頷いておいた。
ていうか、話しようって言ってどれだけ時間経ったか知ってる? いい加減本当に腰据えて話をしようよ。
「んー。枝豆塩加減いい感じ。この味噌マヨ七味? スルメと相性バッチリなんだけど。酒が進む進む」
「あ、そう? それはよかっ」
「デザートは……ないけど、まあいいよね。ベッドの上でいただけば」
「ちょっと、話の腰折らないで」
そこまで素直にならなくていいんです。まだ対応できないので、その辺はまたゆっくりでお願いします。



