「はい。どうぞお客さん」
キッチンカウンターに着いたわたしの前に、置かれた一つのコップ。中には真っ白な液体が入っていた。
「……これは?」
「ハチミツ入りホットミルク。ちょっと甘めにしといた」
「おいおい話が違うじゃないか」
「それはまた今度。多分もう飲まない方がいい。面倒くさくなるオレが」
お酒にお詳しい方がおっしゃるのだ。ここは、素直に首を縦に振っておきましょう。
「ちなみに、君が飲んでるのは?」
「マッコリ」
「お酒だねえ」
「オレはいいの。飲み足りないから」
ひとたびそれを空にした彼は、また新しくお酒を注ぐ。
「よくお酒が進むようで」
「そりゃね。やっと好きな子に会えたんだから、お祝いみたいなもんでしょ」
「お、お祝い」
「あーお酒が旨いね」
嬉しそうな顔に、注意や文句は声に出せなかった。その代わり、といってはなんだけど。
「あ。ちょっと返してよ」
「ダーメ」
「はいはいわかったわかった。やめればいいんでしょやめれば」
「そんなこと言ってないよ」
どういうこと? と眉を寄せた彼に「お酌しますよ」と、にっこり微笑む。彼は、しばらくの間目を丸くしていた。
そして急に、はっと何かに気付いたように立ち上がる。……え、どこに行くの。
「ちょっと待って、確かこの辺に母さんが隠した日本酒が……」
もはや選択が、男子高校生ではない▼
「あー母さんめ、全部飲みやがったな」
「本当は絶対ダメなんだからね。わかってないでしょ」
「九条家の家法では満16歳からいいんだよ」
「んなわけないでしょ」
ヒナタくんが飲み物を準備している間に、わたしも何かつまみになりそうなものがないか探してみることに。
「うわ。どういうことこれ……」
「ん? 何が」
「冷蔵庫お酒しか入ってないんだけど。あと調味料」
「まあ、帰ってきてないからね」
「え? いつから」
「イブからですかねー」
どうやら使ってた鍵をわたしにくれたらしい。スペアキーを持っていたお父様にお願いして、合い鍵を作ってもらっていたらしいけど。
「本当の話をするのはまだかなと思ったんだよ。まだ仲直りしたわけじゃないし、なくしたとか言って鍵変えられても困るし」
「濁している間に、出来た合い鍵を取りに行くのを忘れていたと」
「タイミングが掴めなかっただけだよ。でもかといって二人して取りに行ってみなよ、いろいろ気まずいじゃん。男女二人一つ屋根の下、真夜中に帰って何するんだよって話」
「い、いやいやいや……」
「ま、言ってもすること決まってるけど」
「あ! ヒナタくん見て見て~。冷凍庫に枝豆があったよ~。これ使っても大丈夫かな? ていうか使っちゃうねー」
「一個しかないじゃんね?」
「はいは~い、茹でちゃうからちょっとごめんあそばせ」



