すべての花へそして君へ③


「はい。どうぞお客さん」


 キッチンカウンターに着いたわたしの前に、置かれた一つのコップ。中には真っ白な液体が入っていた。


「……これは?」

「ハチミツ入りホットミルク。ちょっと甘めにしといた」

「おいおい話が違うじゃないか」

「それはまた今度。多分もう飲まない方がいい。面倒くさくなるオレが」


 お酒にお詳しい方がおっしゃるのだ。ここは、素直に首を縦に振っておきましょう。


「ちなみに、君が飲んでるのは?」

「マッコリ」

「お酒だねえ」

「オレはいいの。飲み足りないから」


 ひとたびそれを空にした彼は、また新しくお酒を注ぐ。


「よくお酒が進むようで」

「そりゃね。やっと好きな子に会えたんだから、お祝いみたいなもんでしょ」

「お、お祝い」

「あーお酒が旨いね」


 嬉しそうな顔に、注意や文句は声に出せなかった。その代わり、といってはなんだけど。


「あ。ちょっと返してよ」

「ダーメ」

「はいはいわかったわかった。やめればいいんでしょやめれば」

「そんなこと言ってないよ」


 どういうこと? と眉を寄せた彼に「お酌しますよ」と、にっこり微笑む。彼は、しばらくの間目を丸くしていた。
 そして急に、はっと何かに気付いたように立ち上がる。……え、どこに行くの。


「ちょっと待って、確かこの辺に母さんが隠した日本酒が……」


 もはや選択が、男子高校生ではない▼


「あー母さんめ、全部飲みやがったな」

「本当は絶対ダメなんだからね。わかってないでしょ」

「九条家の家法では満16歳からいいんだよ」

「んなわけないでしょ」


 ヒナタくんが飲み物を準備している間に、わたしも何かつまみになりそうなものがないか探してみることに。


「うわ。どういうことこれ……」

「ん? 何が」

「冷蔵庫お酒しか入ってないんだけど。あと調味料」

「まあ、帰ってきてないからね」

「え? いつから」

「イブからですかねー」


 どうやら使ってた鍵をわたしにくれたらしい。スペアキーを持っていたお父様にお願いして、合い鍵を作ってもらっていたらしいけど。


「本当の話をするのはまだかなと思ったんだよ。まだ仲直りしたわけじゃないし、なくしたとか言って鍵変えられても困るし」

「濁している間に、出来た合い鍵を取りに行くのを忘れていたと」

「タイミングが掴めなかっただけだよ。でもかといって二人して取りに行ってみなよ、いろいろ気まずいじゃん。男女二人一つ屋根の下、真夜中に帰って何するんだよって話」

「い、いやいやいや……」

「ま、言ってもすること決まってるけど」

「あ! ヒナタくん見て見て~。冷凍庫に枝豆があったよ~。これ使っても大丈夫かな? ていうか使っちゃうねー」

「一個しかないじゃんね?」

「はいは~い、茹でちゃうからちょっとごめんあそばせ」