これでもかと言うほど手を伸ばし、待った! ストップ! 冷静に! と顔を真っ赤にして必死に止めるも、彼の顔には面白くないって書いてあった。
「まず他に、しなくちゃいけないことがあるでしょうが」
「愛を確かめる他に何をすると」
あー誰か。飛んでいったヒナタくんのネジ探してきて。
「ムード。ヒナタくんムード」
「今以上にいいタイミング無いでしょ」
「女心をわかってくれ」
「何回も言うけど煽ったのはあんただからね」
「言わなくてもわかってよ」
「何を」
「ちょっと、場所は変えませんか」
「じゃあどこならいいの」
「ヒナタくんち」
「…………」
「……? ヒナタくんちがいい」
「いや、聞こえてるから」
「やっぱり煽ってるよね」それについては、全力で否定しておいた。煽っているわけではないのだ。本音を言っているだけで。
ぶんぶんと首を横に必死になって振っていると、可笑しそうに笑いながら彼はそっと腕を掴む。起き上がったわたしにそっと優しく笑いかけ、乱れた髪を手ぐしで直してくれた。
「じゃあ、何から話そうか」
「……何から話すべきか」
「いつまで、こうしていられるの」
「ん? 時間はたっぷりあるよ。だから、ゆっくりいろんなこと話そ?」
「時間……あるの。ゆっくり話せるの?」
「え? ふふっ。うん! いっぱいあるよ!」
バッと手を広げると、彼は驚いたように目を瞠る。
その後すぐ、嬉しそうに目を細めた。
「……そっか。だったら今は――」
もう少し、このままで。
わたしを抱き寄せた腕の力は、とても強くて。きっと、しばらくは解放されそうにない。するつもりもないんだろう。
ならわたしも――……そんな彼に応えながら、久し振りの彼の体温をしばらく堪能することにしよう。そう思ったのだった。



