すべての花へそして君へ③


 これでもかと言うほど手を伸ばし、待った! ストップ! 冷静に! と顔を真っ赤にして必死に止めるも、彼の顔には面白くないって書いてあった。


「まず他に、しなくちゃいけないことがあるでしょうが」

「愛を確かめる他に何をすると」


 あー誰か。飛んでいったヒナタくんのネジ探してきて。


「ムード。ヒナタくんムード」

「今以上にいいタイミング無いでしょ」

「女心をわかってくれ」

「何回も言うけど煽ったのはあんただからね」

「言わなくてもわかってよ」

「何を」

「ちょっと、場所は変えませんか」

「じゃあどこならいいの」

「ヒナタくんち」

「…………」

「……? ヒナタくんちがいい」

「いや、聞こえてるから」


「やっぱり煽ってるよね」それについては、全力で否定しておいた。煽っているわけではないのだ。本音を言っているだけで。

 ぶんぶんと首を横に必死になって振っていると、可笑しそうに笑いながら彼はそっと腕を掴む。起き上がったわたしにそっと優しく笑いかけ、乱れた髪を手ぐしで直してくれた。


「じゃあ、何から話そうか」

「……何から話すべきか」

「いつまで、こうしていられるの」

「ん? 時間はたっぷりあるよ。だから、ゆっくりいろんなこと話そ?」

「時間……あるの。ゆっくり話せるの?」

「え? ふふっ。うん! いっぱいあるよ!」


 バッと手を広げると、彼は驚いたように目を瞠る。
 その後すぐ、嬉しそうに目を細めた。


「……そっか。だったら今は――」


 もう少し、このままで。


 わたしを抱き寄せた腕の力は、とても強くて。きっと、しばらくは解放されそうにない。するつもりもないんだろう。
 ならわたしも――……そんな彼に応えながら、久し振りの彼の体温をしばらく堪能することにしよう。そう思ったのだった。