すべての花へそして君へ③


 触れ合える喜びを噛み締めながらむぎゅーっと彼の体を抱き締め直すと、窓の外が少しだけ見えた。


「ちょっと寒くなってきたね」

「うん。そうだね」


 また雪が、しんしんと降り始めたらしい。


「あおい」

「ん?」

「ずっと抱き合ってるのもさ、温かくてもちろんいいと思うんだけど」

「……??」

「もうちょっと……さ、飲んでみない?」

「……うんっ。お付き合いしますよ」


 グラスを手に持って、二人静かに合わせてみる。
 ふっと訪れた僅かな沈黙が少し気恥ずかしくて二人小さく笑い合っていると、遠くの方でゴーンと年が明ける音がした。そして続けて、本当に微かに楽しそうな音楽が聞こえてくる。そういえばアイくんが、ダンスをするとか何とか言ってたっけ。


「……オレらってさ」

「ん?」

「長いこと喧嘩してたんだね」

「ど、どうした改まって」


 いきなり話を切り出したかと思ったら、彼は濁しながら「いや、うん。悩んでた時間返してくれねーかなって」と、ちびちびワインを口に運ぶ。


(……ごめんね)

「……? なんて?」

「無駄な時間じゃなかったんだよ」

「……いや、絶対無駄だった」

「ううん必要だった。これからを二人で考えて行くには、大切な時間だったんだよ」

「たとえそうだったとしても、流石に長すぎでしょ」

「そんなことないよ? だってわたしたち頑固だし」

「オレはもっとイチャイチャしたかった」


 あ。やっぱりお酒が入ると、素直さがぽろぽろ出てくるらしい。今度から、入り用な時は試しにきつめのやつを飲ませてやろう。というか入り用っていつだ。

 彼の素直さにか。自分で言った言葉にか。
 可笑しくなってふっと笑いながら、そんな彼に抱き付きながら答えてあげた。


「今から存分にしたらいいのではなかろうか」


 けれどそう言ったら、事も有ろうに突き飛ばされた。しかも、その後すぐ組み敷いてきた。
 待て待て待て。ごめん、言い方悪かったよ。今すぐじゃないんだ。時と場所はせめて弁えてくれ。


「今自分で言ったのに」

「だからって、いきなり胸触ってくる奴がどこにいるかね」

「ここ」

「いや、まあそうなんです。そうだから聞いてるんですけど……」


 久し振りに会ったらまず一番。痩せたか太ったかと、あと胸の大きさの確認が、彼にとっては最重要事項らしい。
 お、お願いだからふにふにしないで。変な気分になるから。


「煽ってきたのはそっちでしょ」

「確かに煽ったかもしれないけど、今じゃなかったんだってば! 太ももから手を離しなさい!」

「煽るなって、オレはちゃんと忠告したよ」

「……! あ、……だ、だめ……っ」

「嘘吐き。嫌じゃないくせに」

「いっ、嫌じゃないけどダメだって言ってるのー!!」