少し恥ずかしそうな顔で睨んでくる目は、迫力も怖さも無くて、寧ろ酷く可愛く見えた。わたしの方が襲いかかりそうなくらいだ。
「ま、こちらとしては大歓迎だけど」
「あれ? それは一体何に対して??」
「今自分が考えてたこと。もろ顔に書いてあった」
「うわお歓迎しちゃダメだよ! 逃げて! わたしから全力で逃げて!」
「オレ、与えられるものは全力で受け取る質なんだよね」
「こら。そんな可愛い顔で笑っても、危険なことに変わりないんだからな」
「しかも彼女からでしょ? 男冥利に尽きるじゃん」
(緊張とか絶対嘘じゃん)
というかですね、わたしはてっきりお酒弱いもんだと勝手に決めつけてましたよ。結構ぐびぐびいってはるんですけど。
「飲まないの?」
「いや、わたしそんなにお酒強くないので」
「まあ試しに飲んでみなよ。これもうジュースみたいなもんだよ」
カクテル=ジュースだと思っている人は、わたしの統計と経験上かなりの酒飲みだという数値が出ている。ま、今回はワインだけれど。
「ヒナタくんって、酒豪なの?」
「ん? 酒豪かどうかはわかんないけど、今のとこ記憶が飛ぶほど酔ったことはないね。二日酔いも未経験」
「え。九条家ではいつもお酒が出てくるの? それ飲んでるの??」
「まあたまに。花咲ほど毎週じゃないけど、飲む時は量飲むかな」
「なんでうち来た時飲まないの? そう言うってことはヒナタくん、なんだかんだ飲みたかったんじゃ」
「だって面倒じゃん。美味しいお酒飲んだ後泥酔した男たち介抱したくないよオレは」
「そう、なんだ(勝つ気満々なのね)」
「うちでは父さんが一番弱いんだよ。無理すんなって言うのにいっつも張り合おうとする」
へ、へえ。じゃあお酒に強い君らのお母様は……酒仙か何かですかね。
「それで? 飲むの、飲まないの」
「……飲んでみる」
ヒナタくんお手製のホットワイン。一口様子を見ながら飲んでみると、わたしが飲みやすいように工夫してくれたのか、本当にジュースみたいで美味しかった。
「ま、飲み過ぎないように。隣にオオカミがいることをお忘れなく」
「別に、ヒナタくんに襲われても問題ないけど」
「んっ!? ごほっ、ごほ」
「ありゃ、大丈夫? お水いる?」
「いきなり、変なこと言うからじゃん」
「でも嘘じゃないもん」
見つめ合うこと数秒。先に目を逸らしたのは彼の方。
「(あーもう。なんでそんなこと、言うかな……)」
暖炉のせいか、顔が少し赤く見える。
「あ。……少しじっとしててくれる?」
「え? ……っ、ちょ」
さっきまでずっと気になっていた煤が、まだ彼の頬の辺に付いていた。それを取ろうと思って、手を伸ばしたんだけど。
「な、……何」
「えっと。……煤が付いてるの。この辺」
「自分で取れるから」
「……そっか」



