すべての花へそして君へ③


 少し恥ずかしそうな顔で睨んでくる目は、迫力も怖さも無くて、寧ろ酷く可愛く見えた。わたしの方が襲いかかりそうなくらいだ。


「ま、こちらとしては大歓迎だけど」

「あれ? それは一体何に対して??」

「今自分が考えてたこと。もろ顔に書いてあった」

「うわお歓迎しちゃダメだよ! 逃げて! わたしから全力で逃げて!」

「オレ、与えられるものは全力で受け取る質なんだよね」

「こら。そんな可愛い顔で笑っても、危険なことに変わりないんだからな」

「しかも彼女からでしょ? 男冥利に尽きるじゃん」

(緊張とか絶対嘘じゃん)


 というかですね、わたしはてっきりお酒弱いもんだと勝手に決めつけてましたよ。結構ぐびぐびいってはるんですけど。


「飲まないの?」

「いや、わたしそんなにお酒強くないので」

「まあ試しに飲んでみなよ。これもうジュースみたいなもんだよ」


 カクテル=ジュースだと思っている人は、わたしの統計と経験上かなりの酒飲みだという数値が出ている。ま、今回はワインだけれど。


「ヒナタくんって、酒豪なの?」

「ん? 酒豪かどうかはわかんないけど、今のとこ記憶が飛ぶほど酔ったことはないね。二日酔いも未経験」

「え。九条家ではいつもお酒が出てくるの? それ飲んでるの??」

「まあたまに。花咲ほど毎週じゃないけど、飲む時は量飲むかな」

「なんでうち来た時飲まないの? そう言うってことはヒナタくん、なんだかんだ飲みたかったんじゃ」

「だって面倒じゃん。美味しいお酒飲んだ後泥酔した男たち介抱したくないよオレは」

「そう、なんだ(勝つ気満々なのね)」

「うちでは父さんが一番弱いんだよ。無理すんなって言うのにいっつも張り合おうとする」


 へ、へえ。じゃあお酒に強い君らのお母様は……酒仙か何かですかね。


「それで? 飲むの、飲まないの」

「……飲んでみる」


 ヒナタくんお手製のホットワイン。一口様子を見ながら飲んでみると、わたしが飲みやすいように工夫してくれたのか、本当にジュースみたいで美味しかった。


「ま、飲み過ぎないように。隣にオオカミがいることをお忘れなく」

「別に、ヒナタくんに襲われても問題ないけど」

「んっ!? ごほっ、ごほ」

「ありゃ、大丈夫? お水いる?」

「いきなり、変なこと言うからじゃん」

「でも嘘じゃないもん」


 見つめ合うこと数秒。先に目を逸らしたのは彼の方。


「(あーもう。なんでそんなこと、言うかな……)」


 暖炉のせいか、顔が少し赤く見える。


「あ。……少しじっとしててくれる?」

「え? ……っ、ちょ」


 さっきまでずっと気になっていた煤が、まだ彼の頬の辺に付いていた。それを取ろうと思って、手を伸ばしたんだけど。


「な、……何」

「えっと。……煤が付いてるの。この辺」

「自分で取れるから」

「……そっか」