今夜のメニューは、チーズフォンデュです。パンや野菜につけて食べますよ。
「……どう?」
「んま」
「よかったー。でもごめんね。また今度いっぱい作るから」
「期待してる」
いくつか食べて、空いたお腹が少し落ち着いたところで。彼は口を開いた。
「食い物あんまりないかもって言ってたんだよね」
「理事長?」
「そそ。だから、想像以上に豪華でびっくりした」
「確かに、そのままで食べられるものは、あまりなかったけどね」
「マジで美味いよ。あんたももっと食べて」
「うん、食べてる食べてる」
わたしは、すでに理事長のところでお呼ばれしてたけど、彼の場合は余程お腹が空いていたのだろう。
それだけ言うと、彼はまた黙々とチーズをつけては食べ、つけては食べをしばらく繰り返していた。
その様子を見つめながら。そうか、そういうことだったのかと、ここまでの流れに合点がいった。どうやらわたしたちがこうしていられるのは、いろんな人が助けてくれたおかげらしい。なんとお礼を言えばいいやら。
「結構量切ったよね」
「ありゃ、全部なくなっちゃった?」
何も言わず、ただ一度頷いたヒナタくんは、まだ少し物足りない表情。お礼はひとまず置いておいて、隣の彼のお腹を満たすにはどうすればいいか、考えた方が良さそうだ。
台所に残っている食材を思い出していると。
「生姜とかあった? シナモンなんかあると嬉しいんだけど」
「ん? ……えっと。うん、あったかな」
「砂糖か蜂蜜は?」
「それはどっちもあったよ。少しだけだったけど」
「よしよし、いい感じ。あとは肝心のものだけど……」
「ひ、ヒナタくん? 一体何を」
「ねえ」
「は、はい」
「ワインは?」
「え? ……あった、けど」
まさかまさかとは思うていたが。
「ん。まあ上出来でしょう」
「ヒナタくんや。それはまさか」
「ん? ホットワイン」
確かに、冷えた身体にはいいかもしれないけれど。
いいんだろうか。本当に、……いいんだろうか。
「素面じゃ話せないこともあるからね」
いやいやいや、何を話そうとしているんだ君は。
「……よい、せ。寒くない?」
ていうかヒナタくん、どれだけ薪持って来たの。
「ご飯を作るにしては多い気がしたけど……」
「これだけ一緒にいたいんだよ」
「熱はないか」
「一晩じゃ、仲直りできないかもしれないし」
そもそもまだ喧嘩してるっていうなら、今こんなに楽しい会話してないと思うけど。
「……あ! わかった。もう酔ったんだ」
「緊張してるくらいには酔ってないかな」
「こ、告白した時が一番緊張したってほんと」
「それ以上余計なこと口に出したら本気で引ん剥く」



