すべての花へそして君へ③


 今夜のメニューは、チーズフォンデュです。パンや野菜につけて食べますよ。


「……どう?」

「んま」

「よかったー。でもごめんね。また今度いっぱい作るから」

「期待してる」


 いくつか食べて、空いたお腹が少し落ち着いたところで。彼は口を開いた。


「食い物あんまりないかもって言ってたんだよね」

「理事長?」

「そそ。だから、想像以上に豪華でびっくりした」

「確かに、そのままで食べられるものは、あまりなかったけどね」

「マジで美味いよ。あんたももっと食べて」

「うん、食べてる食べてる」


 わたしは、すでに理事長のところでお呼ばれしてたけど、彼の場合は余程お腹が空いていたのだろう。
 それだけ言うと、彼はまた黙々とチーズをつけては食べ、つけては食べをしばらく繰り返していた。

 その様子を見つめながら。そうか、そういうことだったのかと、ここまでの流れに合点がいった。どうやらわたしたちがこうしていられるのは、いろんな人が助けてくれたおかげらしい。なんとお礼を言えばいいやら。


「結構量切ったよね」

「ありゃ、全部なくなっちゃった?」


 何も言わず、ただ一度頷いたヒナタくんは、まだ少し物足りない表情。お礼はひとまず置いておいて、隣の彼のお腹を満たすにはどうすればいいか、考えた方が良さそうだ。
 台所に残っている食材を思い出していると。


「生姜とかあった? シナモンなんかあると嬉しいんだけど」

「ん? ……えっと。うん、あったかな」

「砂糖か蜂蜜は?」

「それはどっちもあったよ。少しだけだったけど」

「よしよし、いい感じ。あとは肝心のものだけど……」

「ひ、ヒナタくん? 一体何を」

「ねえ」

「は、はい」

「ワインは?」

「え? ……あった、けど」


 まさかまさかとは思うていたが。


「ん。まあ上出来でしょう」

「ヒナタくんや。それはまさか」

「ん? ホットワイン」


 確かに、冷えた身体にはいいかもしれないけれど。
 いいんだろうか。本当に、……いいんだろうか。


「素面じゃ話せないこともあるからね」


 いやいやいや、何を話そうとしているんだ君は。


「……よい、せ。寒くない?」


 ていうかヒナタくん、どれだけ薪持って来たの。


「ご飯を作るにしては多い気がしたけど……」

「これだけ一緒にいたいんだよ」

「熱はないか」

「一晩じゃ、仲直りできないかもしれないし」


 そもそもまだ喧嘩してるっていうなら、今こんなに楽しい会話してないと思うけど。


「……あ! わかった。もう酔ったんだ」

「緊張してるくらいには酔ってないかな」

「こ、告白した時が一番緊張したってほんと」

「それ以上余計なこと口に出したら本気で引ん剥く」