寧ろ誰のことだと思ったのか聞かせて欲しいくらいだ。
ご乱心のヒナタくんに必死に伝えていると、そのうち冷静さを取り戻したのか、彼はしばらくして頭を抱えた。
「何それ。嫉妬したオレが馬鹿みたいじゃん」
「し、嫉妬?」
「ええそうですよ」
「お、おばちゃんたちに……」
「忘れて」
「あははっ」
目元に涙を浮かべながら笑うわたしに、彼は少し恥ずかしそうにしながらも優しい笑みを浮かべていた。
「笑いすぎ」
すっと、目元に彼の指が伸びてくる。けれど、触れることはなかった。
「……痛く、なかった?」
「う、うん。全然……平気」
「そっか。……ならよかった」
緊張が遷ったのか。僅かな遠慮や微妙な空気が流れる。
「……だいぶ、暖まってきたね」
ここは一つ、わたしの一発芸でも披露して――と思っていると、そんな気まずい空気をやんわりと断った彼が、ズボンのポケットからスマホを取り出した。
「ちょっと、お願いがあるんだよね」
「え?」
そう言って彼が見せてきたスマホ画面には、とある場所の写真が。恐らくここの台所だろう。担がれていた時にちらっと見えたから。
「ガス壊れてるんだって。だから火は暖炉で代用して、それから……」
画像には、少ない調理器具や簡易設備。それから、そのままでは使い勝手が悪そうな食材がいくつか写っている。この写真たちの意図とは。
「オレ超腹減ってんだよね。今の今まで緊張してたから、ご飯全然喉通らないの」
「わお。それは一大事」
「なのでメニューを考え次第、即刻調理に移ること。任せたよ」
「わ、わかった。美味しいの作れるように頑張るねっ」
「その辺は最初から心配してないよ」と、小さく笑みを浮かべた彼は、やる気満々に腕まくりをしている。料理用に新しい薪を取ってくるようだ。久し振りのクッキングか。楽しくなりそうっ。
「ねえヒナタくん?」
「ん?」
「わたし、仲直りするにはやっぱり、美味しいご飯が欠かせないと思うんですよ」
「同感ですね」



