完全に墓穴を掘った挙げ句、少し苛立たしげな彼に二の句が継げなくなったわたしはというと、ついでにと言わんばかりに、マフラーまでぐるぐると……何故か首ではなく体に巻かれた。
(……あ、わかった。米俵だ)
何でデジャビュなのかなと思っていると、そういえばわたしも、彼の家に押しかけた時同じことやってるんだった。言うこと聞かなかったからヒナタくん。流石にぐるぐる巻きにはしてないけど。
まあ大体そんな感じで肩に担がれたわたしは、小屋の奥にあった部屋へと運ばれた。
「はい、到着っと。すぐ暖かくなると思うから、もうちょっと待ってて」
どうやら暖炉があるらしい。先程まで使っていたのか、まだ部屋は少し暖かかった。
わたしをソファーに座らせるなり、彼はざっと灰を払って新しい薪をくべ始める。一生懸命準備してくれている背中に、遠慮がちに声をかけた。
「あの、ヒナタくん」
「さっきまで理事長がいたんだよね」
「え? そうなの?」
「ん。無駄話聞かされてた」
無駄話って……。
彼にとっては大事な話だったんだろうけれど、ヒナタくんにとっては、大欠伸が出るほど退屈だったらしい。
「……大体こんなもんかな。見様見真似だけど」
と、いうよりは、話す必要がなかったんだろう。謝罪よりは庭に咲く桜の話の方が、よっぽど興味あったと見える。
「寒くない……?」
「うん。おかげさまで」
体に巻き付いたマフラーを解いてくれる手や袖は、煤で黒く汚れていた。相当、心配をかけてしまったらしい。
「……ごめんねヒナタくん」
「何が」
「さっさと小屋に入んなかったから」
「…………」
「だから怒ってたんだよね。ごめん」
「いや違うから」
俯いていると、肩にとんと手が置かれる。何故か彼は、顔を片手で押さえながら嘆息を洩らしていた。手を剥がした顔の端には、煤が少しついていた。
「……怒ってないよ」
「じゃあ呆れてるんだ」
「呆れてもない。何、拗ねてんの?」
「別に拗ねてないもん」
折角こうして二人になれたわけだし、余計なことで時間はかけたくない。どのみち悪いのはわたしだ。風邪をぶり返したいわけじゃないし、それに煤が気になるし。ちょっと可愛いけど、取ってあげなきゃだし。
「……やっぱ呆れてるかも」
「ほら見たことか」
「オレにね」
「ヒナタくんに? なんで?」
「さっきのは子供だった。大人げなかったなって」
「……さっき?」
さっきって何のことだろう? お馬鹿な頭を巡らせていると、それを遮るように彼は一つ咳払いをする。
「確かに、風邪に関しては心配してるけど、でも、そこまでじゃないというか。まあ無理すんなとは思ってるけど……」
小さな逡巡の後、彼は解いたマフラーをわたしの首に巻き付けながら、隣に腰を下ろした。
「これでもさ、柄にもなく緊張してるんだよね」
「……そうなの?」
「そうだよ。道明寺に乗り込む時なんか比じゃないくらい」
「んな馬鹿な」



