「それで、そのとき撮った写真がこれね。どう? 間抜けに写ってるでしょー」
ばっちり動画に収めていた遣り取りを見終わってから、最後に撮った写真を自慢げに見せびらかす。彼の背中には、
【 僕はナンパの常習犯!
白状します! 不倫しました!
警察さんどうか僕を捕まえて~ 】
と書いてある紙がばっちりと貼られていた。
「……末恐ろしいな」
「いやほんと、あれ付けて警察行ってたらウケるよね。いつまで付けてたかな」
「はあ」
「どうかしたツバサ」
「逞しい弟の将来が心配だなと思っただけだ」
「……自分の心配した方がいいんじゃない? 卒業後何するか決めたの」
「決めてませんよーすみませんでしたねー」
「いいえーどういたしましてー」
粗方わかる範囲でツバサに話をしたオレは、パソコンから転送してきた動画と写真を削除して、スマホを持ち主に返した。
ツバサは、一度スマホをじっと見つめてから、小さく呟く。
「どうするんだよ、これから」
「どうするって? 何を」
「取り敢えずだ。別れるって言ったんだろ。葵に」
「いやいやいや、どう考えたって別れてないでしょ。あの子全然別れる気なかったでしょ」
でも……と、兄はもう一度手の上に乗ったスマホに視線を落とした。
「メール来たんだろ。意味不明なやつ」
「そうなんだよ。何なのかなあれ。どうすればいいのかなあれ……」
「取り敢えずお前らちゃんと話し合えよ。これからのことはそれから」
「ツバサならグーとチョキとパー。……どれ選ぶ?」
「……そのこと話してるんじゃねえんだけど、取り敢えずパー選んどく」
「わかった。棺にはスマホとパソコンを一緒に入れてね。データは一緒に葬るから。あとあっちで寂しい思いしないようにみんなの写真入れてくれると嬉しい」
「取り敢えず、何とか生きていられる方法を考えよう」
「そうだね」
「何回“取り敢えず”って言わせる気だ」と、一発拳骨を入れたツバサだったけれど、長いため息を吐ききると、真面目腐った顔つきで再び訊いてきた。
「真面目な話、大丈夫なのかよ」
「恋敵なのに心配してくれるんだね」
「お前は何でも我慢する節があるからな。母さんの時だってそうだ。結局気付いてやれなかった」
「別に気にしなくていいのに。もう済んだことだし」
「だから、それなのにこんな大事なことを俺に話してきたから、余計心配なんだっつの」
「……面倒くさいねツバサ」
「俺じゃなくてお前だって」
「うん。自覚あるよ、いろいろ」



