すべての花へそして君へ③


 彼の傍らにある、包装された箱を指差す。
 さすがに、中身がバレているとまでは思わなかったのだろう。尖った口は、少し不服そうだ。


「気付いてたんだ。それは少し面白くない」

「馬鹿野郎。未成年の賞品じゃねえだろ」

「バレてないと思ってる? すでに一杯引っ掛けてること」

「…………」

「飲みたいんでしょう」

「まあな」


 間髪を入れず応えると、彼は楽しそうに笑いながら封を開け、ボトルのワインを自慢げに見せてくる。マジでそれ、気になってたヤツじゃねえの。


「一仕事終えた後の酒とか」

「きっと格別だと思うよ」


 うずうずしている俺を横目に、彼は瞳を爛々と輝かせながらグラスを二つ、どこからか取り出してくる。
 どうやら彼も、相当イケる口らしい。俺は思わず、噴き出して笑ってしまった。


「……たく、どこまで知ってんだ」

「ん? 何か言った?」

「いや、何でもねえよ」

「……ねえ九条くん。仕事をするにあたって、一番大事なものって何だと思う?」

「は? いきなりなんだよ」

「僕はね、“アフター”だと思うんだ。最後の最後まで尽くしてこそ、信用に値する人間だと思ってもらえる。実際問題、僕たちは現在進行形でそうして信頼を回復させているからね」

「……なんだよ、金とる気かよ」

「それもいいかもね」


 はい、と空のグラスを渡してくる彼は嬉しそうに相好を崩し、ワインを開けようとしている。
 ……そういえば。いつの間にか疲れはなくなった。不安も。あいつらのためを思って、あの人の連絡先を聞き出した後悔も。
 あるのは、残ってるのは、ほんの少しの傷だけだ。


「……さんきゅ」

「ん? You're welcome.」


 それを酒に癒やしてもらうのも悪くない。
 ま、年齢的には『まだ早い!』とか、言われるんだろうけど。


 ひんやりと冷たい風。夜の音を吸い込む雪。静かな冬の空の下。
 二つのグラスが、小さく鳴った。