彼の傍らにある、包装された箱を指差す。
さすがに、中身がバレているとまでは思わなかったのだろう。尖った口は、少し不服そうだ。
「気付いてたんだ。それは少し面白くない」
「馬鹿野郎。未成年の賞品じゃねえだろ」
「バレてないと思ってる? すでに一杯引っ掛けてること」
「…………」
「飲みたいんでしょう」
「まあな」
間髪を入れず応えると、彼は楽しそうに笑いながら封を開け、ボトルのワインを自慢げに見せてくる。マジでそれ、気になってたヤツじゃねえの。
「一仕事終えた後の酒とか」
「きっと格別だと思うよ」
うずうずしている俺を横目に、彼は瞳を爛々と輝かせながらグラスを二つ、どこからか取り出してくる。
どうやら彼も、相当イケる口らしい。俺は思わず、噴き出して笑ってしまった。
「……たく、どこまで知ってんだ」
「ん? 何か言った?」
「いや、何でもねえよ」
「……ねえ九条くん。仕事をするにあたって、一番大事なものって何だと思う?」
「は? いきなりなんだよ」
「僕はね、“アフター”だと思うんだ。最後の最後まで尽くしてこそ、信用に値する人間だと思ってもらえる。実際問題、僕たちは現在進行形でそうして信頼を回復させているからね」
「……なんだよ、金とる気かよ」
「それもいいかもね」
はい、と空のグラスを渡してくる彼は嬉しそうに相好を崩し、ワインを開けようとしている。
……そういえば。いつの間にか疲れはなくなった。不安も。あいつらのためを思って、あの人の連絡先を聞き出した後悔も。
あるのは、残ってるのは、ほんの少しの傷だけだ。
「……さんきゅ」
「ん? You're welcome.」
それを酒に癒やしてもらうのも悪くない。
ま、年齢的には『まだ早い!』とか、言われるんだろうけど。
ひんやりと冷たい風。夜の音を吸い込む雪。静かな冬の空の下。
二つのグラスが、小さく鳴った。



