すべての花へそして君へ③

 ――――――…………
 ――――……


『ブラコンブラコンうるせえ』

『たとえばの話、わたしとツバサくんが二人誘拐されるとするじゃない?』

『は? お前、何いきなり物騒なこと言って』

『それで人質になって、朝日向と九条それぞれに身代金が要求されるとする』

『おいおいおい』

『生憎金銭には困ってないだろうから、わたしたちを助けようと家はすぐに要求を呑み、お金を振り込むだろう』

『……頼むからちょっと待て』

『ん? うん、わかった』


 仕事のし過ぎで頭が可笑しくなったのか。いや、絶対原因はそうだろう。
 けれど、彼女の様子を見る限り、ふざけているわけではなさそうだ。


『はあ。……それで』

『でもお金が手に入れば、犯人からすればわたしたちを生かしておく必要はないわけだ。寧ろ捕まるリスクが上がるもの』

『…………』

『そして犯人はわたしたちにこう言う。“一人だけ助けてやる。殺されたいか? 生きたいか?”』


 それは窮極の選択肢。一度きりの人生で、そんな目に遭うことはほぼないだろうが。残念なことに、絶対にないとは言い切れない。
 彼女が何を考えてそんな話をしたのかはわからないが、俺は静かに考えた答えを伝えようとした。

 けれどそれを、彼女は綺麗な微笑みでそっと制す。


『わたしが惹かれた一番の理由は、ヒナタくんなら絶対一人になることを選ばないからだ』


 どちらかの身に危険が迫ったとしても、絶対に自分を犠牲になんてしない。それでわたし一人が確実に残れるとしても、絶対に二人でいられる方法を探してくれる。
 もし、最後までその方法が見つからなかった時は、一緒に地獄の底まで堕ちてくれる。


『素直じゃないから口に出してはくれないけど。でもヒナタくんなら、二人でいることを選んでくれるって、わたしには絶対の自信があるからだよ』


“――だって、どちらかが欠けた世界以上に、つまらないものなんてないでしょう?”