すべての花へそして君へ③


 言い切るが早いか。物凄い勢いで飛び掛かってきた。
 ……あーダメだ。これ以上は無理。


「ぶっ、……ははは!!」

「おい、ツバサ! さっさと返っ、せ!」

「は? 馬鹿。葵のだっつってんだろ」

「はあ? あいつのもんならオレのもんじゃん!」


 お前はいつガキ大将になったんだ。
 どうやら弟心は、複雑そうに見えて、意外と一番単純らしい。


「……はあ、はあ。……くそっ」


 それから死闘すること数十分。膝に手をついて息を整える彼は、そろそろ真っ向勝負じゃ勝てないとわかって、次の策を練ってくるはずだ。
 これ以上は後が怖いので、ふっと静かに戦闘態勢は解く。決着をつけたかったらしい弟は、それさえ嫌がったけれど。



『なんでツバサが、あの人があいつのスマホ持ってるって知ってたの』

『どうしてツバサはよくて、オレはダメなの』

『……糞兄貴』



「はあ。そもそも、なんでツバサがあいつのカード持ってんの」

「このカード渡す代わりに、一つ訊きてえんだけど」

「今オレが訊いてんだけど」

「まあ聞けって」


 これは、前にも一度、訊いたことのある話。
 不平不満に文句苦情。そんな小言を俺にぶちまけた日。


『……おい日向、苛立ってるからって物に当たるな』

『あいつは!?』

『は?』

『酷いって……大丈夫なんだよね!?』


 顔面蒼白な顔で大きな音を立てながら、お前が玄関の扉を半壊させた日のこと。


 ――――――…………
 ――――……


『……面会謝絶。病院は?』

『藍からはそこまで聞き出せてない。でも軽快していってはいるみたいだ』

『……うん』

『大丈夫だって。お前がそんな顔したところでどうにかなるか? あいつのことだ、すぐ元気になって帰ってくるよ』


 そうだねと、返事が返ってくるけれど、どこか上の空で。俯く弟は、苦しそうにただ背中を丸めていた。


『なあ日向』

『……何?』


 帰って早々、罵詈雑言が来るもんだとばかり思っていたから、正直電話先で彼女のことを話して後悔していた。
 電話した時はもう家の前だったらしいけれど、電話を切った後、なかなか玄関の扉は開かなかった。俺のところに来るまで、弟はどんな思いだったのだろうか。


『もしもの話な?』

『ん? ……うん』

『もし、お前の大切な人が危ない目に遭っ――』

『遭わせた方が絶対危ない目に遭うって確信がある』

『……もしお前が敵わな――』

『死んだ方がラクだと思うほど怖い目見せてやる』

『お前それ、今俺に向かって言ったろ』

『うん』

『うんて、お前なあ』

『……いいこと思いついた』

『待て。やめろ。それは一旦頭から消して、まず俺の話を最後まで聞け』

『……? わかった』


 だから、訊いてみたかったのは本当だし。ついでに少しでも、気を紛らわすことができれば……って、そう思ったんだ。