言い切るが早いか。物凄い勢いで飛び掛かってきた。
……あーダメだ。これ以上は無理。
「ぶっ、……ははは!!」
「おい、ツバサ! さっさと返っ、せ!」
「は? 馬鹿。葵のだっつってんだろ」
「はあ? あいつのもんならオレのもんじゃん!」
お前はいつガキ大将になったんだ。
どうやら弟心は、複雑そうに見えて、意外と一番単純らしい。
「……はあ、はあ。……くそっ」
それから死闘すること数十分。膝に手をついて息を整える彼は、そろそろ真っ向勝負じゃ勝てないとわかって、次の策を練ってくるはずだ。
これ以上は後が怖いので、ふっと静かに戦闘態勢は解く。決着をつけたかったらしい弟は、それさえ嫌がったけれど。
『なんでツバサが、あの人があいつのスマホ持ってるって知ってたの』
『どうしてツバサはよくて、オレはダメなの』
『……糞兄貴』
「はあ。そもそも、なんでツバサがあいつのカード持ってんの」
「このカード渡す代わりに、一つ訊きてえんだけど」
「今オレが訊いてんだけど」
「まあ聞けって」
これは、前にも一度、訊いたことのある話。
不平不満に文句苦情。そんな小言を俺にぶちまけた日。
『……おい日向、苛立ってるからって物に当たるな』
『あいつは!?』
『は?』
『酷いって……大丈夫なんだよね!?』
顔面蒼白な顔で大きな音を立てながら、お前が玄関の扉を半壊させた日のこと。
――――――…………
――――……
『……面会謝絶。病院は?』
『藍からはそこまで聞き出せてない。でも軽快していってはいるみたいだ』
『……うん』
『大丈夫だって。お前がそんな顔したところでどうにかなるか? あいつのことだ、すぐ元気になって帰ってくるよ』
そうだねと、返事が返ってくるけれど、どこか上の空で。俯く弟は、苦しそうにただ背中を丸めていた。
『なあ日向』
『……何?』
帰って早々、罵詈雑言が来るもんだとばかり思っていたから、正直電話先で彼女のことを話して後悔していた。
電話した時はもう家の前だったらしいけれど、電話を切った後、なかなか玄関の扉は開かなかった。俺のところに来るまで、弟はどんな思いだったのだろうか。
『もしもの話な?』
『ん? ……うん』
『もし、お前の大切な人が危ない目に遭っ――』
『遭わせた方が絶対危ない目に遭うって確信がある』
『……もしお前が敵わな――』
『死んだ方がラクだと思うほど怖い目見せてやる』
『お前それ、今俺に向かって言ったろ』
『うん』
『うんて、お前なあ』
『……いいこと思いついた』
『待て。やめろ。それは一旦頭から消して、まず俺の話を最後まで聞け』
『……? わかった』
だから、訊いてみたかったのは本当だし。ついでに少しでも、気を紛らわすことができれば……って、そう思ったんだ。



