すべての花へそして君へ③


 感情の読み取れない顔にふっと笑みを浮かべた彼は、そのままゆっくりと席を外し、そしてすぐに戻ってくる。


「あちらよりは少し大振りになりますが」

「こ、これは……」

「可愛らしいフォルムでしょう」

「ま、まあ確かに可愛い、ですね」


 よく見る、ブタさんの貯金箱だけど。でも確かに、この丸いフォルムが何とも言えない。可愛い。


「ゲームの参加賞に。よろしければ」

「え?」

「おや、お気に召しませんか」

「いえいえとんでもないです。けれどすみません、あまり状況をわかっていなくて」

「それは無理もありません。賞品と今決めたので」

「……と申しますと?」


「こうでもしないと、貴方は何も受け取ってはくれませんから」と、そんなことを言う顔は、本当に少しだけだけれど拗ねているように見えた。
 ついでに、「そ、それに。貴方からのお祝いなんてご勘弁いただきたいです」なんて。申し訳なさげに視線を下げる彼に、思わずぽかんと口を開けてしまった。

 そんなに意地の悪いことをした覚えはないのだけれど。どうやら彼は、今までのこと全部を引っくるめて、このブタさんに託したらしい。


「ははっ。わたし的には、もう十分ですけど」

「それでは私の気が済みません」

「いいえ有栖川理事長。本当にもう、十分なはずですよ」


 もう十分に、わたしは貴方の出した食べ物を口にしている。そして、わたしはわたしの話を、貴方に全て打ち明けている。
 それは、貴方を信頼していることにはならないだろうか。これは、貴方を許していることには、ならないだろうか。


「けれど、貴方に信用に値すると思ってもらえるほどのことを、私たちはまだ示すことができないでいます」

「そんなことないですよ。だって笑っていましたし」

「……はい?」

「ここであんな風にはしゃいでるくらいには楽しそうでした。いい関係を築いてくださり、本当に有難う御座います」


 わたしではもしかしたら、彼らのようにはできなかったかもしれない。大きく線を飛び越えてしまうか、逆に大きな壁を作ってしまうか。
 先に友達という関係を作ってしまうと、こういう世界にとっては線引きが難しくなることだってある。でも、貴方は……貴方達はそうはさせなかった。わたしは、それがすごく嬉しいんだ。

 ま、それでも納得いかないって言うのなら。


「じゃあこの可愛いブタさんは、ゲームの参加賞ってことで戴いちゃいますね」

「朝日向さん……」

「あ。返せって言われてもダメですからねー。もうこのぶう子ちゃんはわたしのです」