感情の読み取れない顔にふっと笑みを浮かべた彼は、そのままゆっくりと席を外し、そしてすぐに戻ってくる。
「あちらよりは少し大振りになりますが」
「こ、これは……」
「可愛らしいフォルムでしょう」
「ま、まあ確かに可愛い、ですね」
よく見る、ブタさんの貯金箱だけど。でも確かに、この丸いフォルムが何とも言えない。可愛い。
「ゲームの参加賞に。よろしければ」
「え?」
「おや、お気に召しませんか」
「いえいえとんでもないです。けれどすみません、あまり状況をわかっていなくて」
「それは無理もありません。賞品と今決めたので」
「……と申しますと?」
「こうでもしないと、貴方は何も受け取ってはくれませんから」と、そんなことを言う顔は、本当に少しだけだけれど拗ねているように見えた。
ついでに、「そ、それに。貴方からのお祝いなんてご勘弁いただきたいです」なんて。申し訳なさげに視線を下げる彼に、思わずぽかんと口を開けてしまった。
そんなに意地の悪いことをした覚えはないのだけれど。どうやら彼は、今までのこと全部を引っくるめて、このブタさんに託したらしい。
「ははっ。わたし的には、もう十分ですけど」
「それでは私の気が済みません」
「いいえ有栖川理事長。本当にもう、十分なはずですよ」
もう十分に、わたしは貴方の出した食べ物を口にしている。そして、わたしはわたしの話を、貴方に全て打ち明けている。
それは、貴方を信頼していることにはならないだろうか。これは、貴方を許していることには、ならないだろうか。
「けれど、貴方に信用に値すると思ってもらえるほどのことを、私たちはまだ示すことができないでいます」
「そんなことないですよ。だって笑っていましたし」
「……はい?」
「ここであんな風にはしゃいでるくらいには楽しそうでした。いい関係を築いてくださり、本当に有難う御座います」
わたしではもしかしたら、彼らのようにはできなかったかもしれない。大きく線を飛び越えてしまうか、逆に大きな壁を作ってしまうか。
先に友達という関係を作ってしまうと、こういう世界にとっては線引きが難しくなることだってある。でも、貴方は……貴方達はそうはさせなかった。わたしは、それがすごく嬉しいんだ。
ま、それでも納得いかないって言うのなら。
「じゃあこの可愛いブタさんは、ゲームの参加賞ってことで戴いちゃいますね」
「朝日向さん……」
「あ。返せって言われてもダメですからねー。もうこのぶう子ちゃんはわたしのです」



