すべての花へそして君へ③

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 ……カチャリ。綺麗な所作に、食器が軽やかに音を奏でた。


「そうでしたか。そのようなことが」


 少し冷めた紅茶を一口飲む。ぶっ通しで話したせいか、それとも緊張のせいか。まるで生き返ったような心地だ。オアシスの水か何かですかこれは。


「ですが、どうして私には“本当の物語”をお聞かせくださったのでしょう」

「“事情を知っている方”に隠し事をするのは得策ではありませんから」

「“ありのまま”で、嬉しく思いますよ」

「ふふ、ありがとうございます」


 二人で小さく笑い合っているとふと、足のついた小さな陶器の入れ物に目がいった。
 真っ白な陶器に、金の縁取り、花の模様かと思ったそれは小さな羽がいくつも重なってできており、蓋には鳥が二羽、寄り添うように描かれている。

 それが、とても綺麗だったからか魅入られていたからか、彼の言った言葉が一回では理解できなかった。


「いえね、本か何かにしてみては如何かなと」

「ざ、残念なことに文才は皆無でして。到底物書きには向いていないかと」

「不特定多数も勿論素敵なことですが、貴方の大切な方への贈り物として」

「大切……」

「ええ。貴方がこんなにも素晴らしい方なのだと、知って頂ける、覚えておいていただける物語を。貴方がいなくても、誰かが代わりに紡げる貴方の話を」

「…………」

「そんな物語を、貴方の素敵な人生を、知るべき人には知っていてもらうのは如何かなと。綴ってみては如何かなと。この、とんでもない物語を」

「ふはっ。確かにとんでもないかも」


 本音で話してくれていることがよくわかる。それは、先にわたしたちが“ありのまま”の話をしていたせいもあるんだろうけれど。
 でも……そっか。物語か。書いている日記をいじるくらいなら、文才のないわたしでも少しはできるかもしれない。流石に、押っ広げて見せるようなことはできないけど。変態と言えど羞恥心はあるのだ。

 ふと視線を上げると、また先程の小さな入れ物に目が行った。やっぱりすごく綺麗。


「気になりますか?」

「あ。いえ、とても綺麗な絵付けだなと思って……」


 この小さな陶器に、ここまでの丁寧で細かい仕事をしているから、気になったのだろうか。でもこれ多分――


「これは、海棠氏から戴いたものなんですよ」

「……理事長からですか?」

「ええ。けれどこれは、本来貴方の物語には不必要なもの」

「……え?」

「中年男の戯れ言です。お気になさらず」