すべての花へそして君へ③

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 とんだ目に遭った。まだ、来た道を帰った方が擦り切れなかったと思う。オレの心臓的なものも、精神的なものも、……尻も。
 ひとまずズボンが無事でよかったテカテカだけど。これがあの世に逝ってたら、間違いなくあいつよりも先に警察行きだ。


「痛っ……、たく。どこの理事長も変なことが好きとか困ったもんだぜ」


 腰から尻にかけて、よく頑張った無事で良かったと労いを込めてさすっていると、後ろから声がかかる。どうやら幾分か体調が良くなったらしい。会場を出入りする度気にはなっていたから、きっとどこかで休ませてもらっていたんだろう。


「柊、さっき叫んだか?」

「は? なんでこんなところで叫ぶ必要があるんだよ。桜じゃあるまいし」

「そうか。いや、さっきお前のファンの子見かけたんだ。確か柔道の」

「それは見間違いであって欲しいなあ是非とも」


 恐怖の記憶はまだ新しい。思い出させないでくれ、クリスマスパーティーを。やっぱり、もうちょっと文句言えばよかったなあいつに。あと理事長にも。


「っと、そう言うユッキーも随分そっち方面で苦労してるみてえじゃねえか」

「ついさっき二十五人目に声をかけられたところだ……」

「素朴な疑問なんだけどよ。あ、いや気を悪くしたら悪い」

「改まってなんだ」


 オレの場合はひとまず置いておくにしても。彼に声をかけてくる女性は、何がそんなにダメなのか。一人くらい、いい子だと思う子はいないのだろうか。


「そりゃ、ユッキーがあいつのこと想ってるのは知ってるぞ」

「……知っているなら」

「あいつの、他人を引きつける力は尋常じゃねえからな」

「それには同感だな」


 小さく、彼は呼吸した。


「この街から出ることにしたんだ」

「ここじゃ、できねえことなんだな」

「ああ。見返したい人がいるんだ」

「……へえ。そっか」


 それだけで十分。“それしか見えていない”間はきっと、何が何でも頑張るつもりなんだろう。なんだかんだ、頑固だから。


「こりゃ、先が長そうだな」

「うるさい。今くらいまだいいだろう」

「なんだ。隙あらばを狙ってんの」

「いい加減仲直りしろと思っているだけだ」


 難儀な性格だなと。ぽんと、彼の肩を叩く。ま、人のこと言えた口じゃねえけど。


「あ、ちーちゃん」

「月雪クンも。こんなところで何してるの?」


 それはこっちの台詞だ。けどその前に、お前ら喧嘩はもう済んだのか。鬼ごっこの結末は。


「おれらの喧嘩なんて、じゃれ合ってるようなもんだよお」

「今は取り敢えず、二人の応援しなきゃでしょう?」

「…………」

「考えることは、みんな同じ。ということですね」


 当人たちは、それに気が付いているんだろうか。いや気付いているんだろうけど、ここまで引き延ばしてしまった分、会いに行きづらいんだろう。何か、ちょっとしたきっかけがないと。口ではあんなこと言ってたけど。


(ま、一人頑張ってた奴がいっから、このくそ長い痴話喧嘩も今夜で終いだろ。じゃないとあいつが報われねえ)

「ちーちゃん?」

「一般人は、今夜はこの辺でお暇させてもらおうぜ。んで、来れる人はこの後オレんちで宅飲みな。カナとキサと、あとトーマも。声かけて帰ろうぜ」

「そうだね。十分、今夜は楽しませてもらったもんね」

「でも、それは流石に迷惑じゃ。いきなりだろ」

「ばあちゃんのことなら心配すんな。今日は友達と温泉旅行に行ってていねえから」

「ちーちゃん、本当は一人が寂しかったんじゃ……」

「来るのか、来ねえのか」

「「「行かせていただきます」」」


 お膳立ては、十分に整えてやったんだ。
 これで何もなかったら、マジで絶交してやるからな。