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とんだ目に遭った。まだ、来た道を帰った方が擦り切れなかったと思う。オレの心臓的なものも、精神的なものも、……尻も。
ひとまずズボンが無事でよかったテカテカだけど。これがあの世に逝ってたら、間違いなくあいつよりも先に警察行きだ。
「痛っ……、たく。どこの理事長も変なことが好きとか困ったもんだぜ」
腰から尻にかけて、よく頑張った無事で良かったと労いを込めてさすっていると、後ろから声がかかる。どうやら幾分か体調が良くなったらしい。会場を出入りする度気にはなっていたから、きっとどこかで休ませてもらっていたんだろう。
「柊、さっき叫んだか?」
「は? なんでこんなところで叫ぶ必要があるんだよ。桜じゃあるまいし」
「そうか。いや、さっきお前のファンの子見かけたんだ。確か柔道の」
「それは見間違いであって欲しいなあ是非とも」
恐怖の記憶はまだ新しい。思い出させないでくれ、クリスマスパーティーを。やっぱり、もうちょっと文句言えばよかったなあいつに。あと理事長にも。
「っと、そう言うユッキーも随分そっち方面で苦労してるみてえじゃねえか」
「ついさっき二十五人目に声をかけられたところだ……」
「素朴な疑問なんだけどよ。あ、いや気を悪くしたら悪い」
「改まってなんだ」
オレの場合はひとまず置いておくにしても。彼に声をかけてくる女性は、何がそんなにダメなのか。一人くらい、いい子だと思う子はいないのだろうか。
「そりゃ、ユッキーがあいつのこと想ってるのは知ってるぞ」
「……知っているなら」
「あいつの、他人を引きつける力は尋常じゃねえからな」
「それには同感だな」
小さく、彼は呼吸した。
「この街から出ることにしたんだ」
「ここじゃ、できねえことなんだな」
「ああ。見返したい人がいるんだ」
「……へえ。そっか」
それだけで十分。“それしか見えていない”間はきっと、何が何でも頑張るつもりなんだろう。なんだかんだ、頑固だから。
「こりゃ、先が長そうだな」
「うるさい。今くらいまだいいだろう」
「なんだ。隙あらばを狙ってんの」
「いい加減仲直りしろと思っているだけだ」
難儀な性格だなと。ぽんと、彼の肩を叩く。ま、人のこと言えた口じゃねえけど。
「あ、ちーちゃん」
「月雪クンも。こんなところで何してるの?」
それはこっちの台詞だ。けどその前に、お前ら喧嘩はもう済んだのか。鬼ごっこの結末は。
「おれらの喧嘩なんて、じゃれ合ってるようなもんだよお」
「今は取り敢えず、二人の応援しなきゃでしょう?」
「…………」
「考えることは、みんな同じ。ということですね」
当人たちは、それに気が付いているんだろうか。いや気付いているんだろうけど、ここまで引き延ばしてしまった分、会いに行きづらいんだろう。何か、ちょっとしたきっかけがないと。口ではあんなこと言ってたけど。
(ま、一人頑張ってた奴がいっから、このくそ長い痴話喧嘩も今夜で終いだろ。じゃないとあいつが報われねえ)
「ちーちゃん?」
「一般人は、今夜はこの辺でお暇させてもらおうぜ。んで、来れる人はこの後オレんちで宅飲みな。カナとキサと、あとトーマも。声かけて帰ろうぜ」
「そうだね。十分、今夜は楽しませてもらったもんね」
「でも、それは流石に迷惑じゃ。いきなりだろ」
「ばあちゃんのことなら心配すんな。今日は友達と温泉旅行に行ってていねえから」
「ちーちゃん、本当は一人が寂しかったんじゃ……」
「来るのか、来ねえのか」
「「「行かせていただきます」」」
お膳立ては、十分に整えてやったんだ。
これで何もなかったら、マジで絶交してやるからな。
とんだ目に遭った。まだ、来た道を帰った方が擦り切れなかったと思う。オレの心臓的なものも、精神的なものも、……尻も。
ひとまずズボンが無事でよかったテカテカだけど。これがあの世に逝ってたら、間違いなくあいつよりも先に警察行きだ。
「痛っ……、たく。どこの理事長も変なことが好きとか困ったもんだぜ」
腰から尻にかけて、よく頑張った無事で良かったと労いを込めてさすっていると、後ろから声がかかる。どうやら幾分か体調が良くなったらしい。会場を出入りする度気にはなっていたから、きっとどこかで休ませてもらっていたんだろう。
「柊、さっき叫んだか?」
「は? なんでこんなところで叫ぶ必要があるんだよ。桜じゃあるまいし」
「そうか。いや、さっきお前のファンの子見かけたんだ。確か柔道の」
「それは見間違いであって欲しいなあ是非とも」
恐怖の記憶はまだ新しい。思い出させないでくれ、クリスマスパーティーを。やっぱり、もうちょっと文句言えばよかったなあいつに。あと理事長にも。
「っと、そう言うユッキーも随分そっち方面で苦労してるみてえじゃねえか」
「ついさっき二十五人目に声をかけられたところだ……」
「素朴な疑問なんだけどよ。あ、いや気を悪くしたら悪い」
「改まってなんだ」
オレの場合はひとまず置いておくにしても。彼に声をかけてくる女性は、何がそんなにダメなのか。一人くらい、いい子だと思う子はいないのだろうか。
「そりゃ、ユッキーがあいつのこと想ってるのは知ってるぞ」
「……知っているなら」
「あいつの、他人を引きつける力は尋常じゃねえからな」
「それには同感だな」
小さく、彼は呼吸した。
「この街から出ることにしたんだ」
「ここじゃ、できねえことなんだな」
「ああ。見返したい人がいるんだ」
「……へえ。そっか」
それだけで十分。“それしか見えていない”間はきっと、何が何でも頑張るつもりなんだろう。なんだかんだ、頑固だから。
「こりゃ、先が長そうだな」
「うるさい。今くらいまだいいだろう」
「なんだ。隙あらばを狙ってんの」
「いい加減仲直りしろと思っているだけだ」
難儀な性格だなと。ぽんと、彼の肩を叩く。ま、人のこと言えた口じゃねえけど。
「あ、ちーちゃん」
「月雪クンも。こんなところで何してるの?」
それはこっちの台詞だ。けどその前に、お前ら喧嘩はもう済んだのか。鬼ごっこの結末は。
「おれらの喧嘩なんて、じゃれ合ってるようなもんだよお」
「今は取り敢えず、二人の応援しなきゃでしょう?」
「…………」
「考えることは、みんな同じ。ということですね」
当人たちは、それに気が付いているんだろうか。いや気付いているんだろうけど、ここまで引き延ばしてしまった分、会いに行きづらいんだろう。何か、ちょっとしたきっかけがないと。口ではあんなこと言ってたけど。
(ま、一人頑張ってた奴がいっから、このくそ長い痴話喧嘩も今夜で終いだろ。じゃないとあいつが報われねえ)
「ちーちゃん?」
「一般人は、今夜はこの辺でお暇させてもらおうぜ。んで、来れる人はこの後オレんちで宅飲みな。カナとキサと、あとトーマも。声かけて帰ろうぜ」
「そうだね。十分、今夜は楽しませてもらったもんね」
「でも、それは流石に迷惑じゃ。いきなりだろ」
「ばあちゃんのことなら心配すんな。今日は友達と温泉旅行に行ってていねえから」
「ちーちゃん、本当は一人が寂しかったんじゃ……」
「来るのか、来ねえのか」
「「「行かせていただきます」」」
お膳立ては、十分に整えてやったんだ。
これで何もなかったら、マジで絶交してやるからな。



