一呼吸置いて不意に出された話題に、一瞬言葉も息も詰まった。
「……それ、は……」
「言っとくけどお前マジで関係ないからな」
落ちた視線にそれだけ言うと、頭に僅かな重みとぬくもりがやってくる。「結局は、信頼だろ」その言葉が、直接頭に響いた。
「隠してて、いいことあると思うか?」
「それは、思わない、けど……」
「いや変なところだけは隠せよ。それこそ信用が欠けるぞ」
「わ、わかってるよ」
頭突くつもりで勢いよく顔を上げてみたけれど、行動を読んでいたのか彼はすでに避けていた。もうっ、わかったような顔して。
「わかってんならいいんだよ。お前にねえのは自信だけだからな」
「……大丈夫だと、思ってるんだ」
「大丈夫だろ。ま、お前なら何かあったとしても何とかなるんじゃね?」
「あは。……うん、ありがとう」
大人びた笑顔にはまだ慣れない。八重歯を出して、子供っぽく笑っている顔の方が、やっぱりちょっと可愛くて好きだけど。
「何かあったら駆け込み寺にくればいいだろ。しゃあねえから、お前専用部屋用意しといてやる」
「……それ、素敵過ぎて入り浸っちゃうかも」
「いいんじゃね? 迎えが来るまでいつまでもいろよ。オレ的には歓迎」
「……ははっ。それについては、今のところ要相談で」
ヒールを履いても高い目線に、彼の未来図を目蓋の裏へ、そっと描いておいた。
「おや、柊くんもお帰りですか」
図ったように現れた彼は、手提げ袋を一つ、すでに用意していた。どうやら気を遣わせてしまったらしい。
「はい、お邪魔しました。あとよろしくお願いします」
「ええ。変な虫がつかないよう、きちんと見届けますよ」
「む、虫??」
一体どういうことだと二人に問い質してみるものの、「お前は知らなくていいんだよ」の一点張り。変な虫寄せ付けそうな匂いしてるのかな。……くんくん。自分じゃわからん。
「どちらまでお帰りですか」
「ひとまず会場まで。ま、誰かいると思うので」
「それでは一番近い隠し扉までご案内します」
「あ、マジっすか。それすげえ有難いです」
それから。「ここでいいよ。じゃあな、あいつによろしく」そう言って扉まで案内されていったチカくんの背中に手を振ってすぐのこと。「ぎやあああああああああぁぁー……」と、何だか嫌な予感のする叫び声が上がった。
帰ってきた理事長殿に、何かあったのかと聞いてみたところ。「ああ、あちらの扉は少しばかり急な坂道になっておりますので」と言うので。何も聞かなかったことにしておいた。
「こんな風にお招きしておいて、烏滸がましいのですが、少しお喋りがしてみたいなと思いまして」
「ええ。わたしも、貴方とお話ししてみたいと思っていました」
「まだ、直接お祝いも言えていませんし」そう言うと彼は少し泣きそうな顔で、優しく相好を崩した。
「とても素敵なご招待、ありがとうございますっ」
「……いえ。とんでも、ございません」
「此方こそ、お目にかかれて光栄です。……ありがとう」吐息と一緒に落ちた彼の感謝に、心中を察するのはあまりにも簡単だった。



