だから、はっきり言ってやる。
「あんた、オレらのこと舐めすぎだから」
彼は、顕著に眉を顰めた。訝しげな視線は、まるでこちらの力量を推し量っているかのよう。
「……舐めるって?」
「確かに、はじめてあいつの未来の話を聞いたときは動揺した。寂しさに押し潰されないように努力した」
「頑張るベクトルは間違ってたけどね」
「それは、あんたが全部知ってるからだろ。弱いオレができたのはせいぜい自分の保身と、そんなあいつとどうやったら一緒にいられるか考えることくらいだ」
「……それで?」
「でも今は違う。オレとあんたとあいつは今、同じ場所にいる」
「まだ訊きたいことあるんじゃなかったっけ」
「一番重要なのはそれじゃない。オレにとって重きを置いていたのは、決められた未来をあいつが知ることだ。他は正直今どうでもいい」
そして懐から、一枚の紙を取り出した。
目の前の彼は、それを見て一瞬、目の色を変えたように見えた。
「日が暮れる自己紹介はいらない。少なくとも、あんたの弱みになりそうなことはちゃんと掴んでる」
その紙には、女性と小さな女の子が二人。そして目の前の彼が、楽しそうな顔で写っていた。
「だから言ったでしょ。オレらのこと、舐めすぎだって」
「……成る程。桐生杜真くんか」
「生憎オレの知ってる弁護士の卵は、一度気になったことはとことん調べ上げる質でね」
「てっきり元カノちゃんと話して終わりになったと思ったのに」
「残念だけど、その元カノもグルだよ。ま、オレらが勝手に利用しただけであいつは何も知らないけど」
要はあんたに、自分にはもう目が向いていないと思い込ませられれば、それでいい。
だからこちらも、距離を置いた分、持ち駒を存分に使わせてもらったというわけだ。
「正直なところ、こうやって写真に写っているだけで、これがあんたの本当の姿かどうかまでは知りませんけどね」
「そうだね。自分でも何個顔を持っているのか、ちゃんと把握しきれてるか不安な所だよ」
「でも写真を見る限りはあんた、オレらに向ける気持ち悪い笑顔よりは、よっぽど楽しそうな顔してますけどね」
「んー……じゃあ、もしその人たちが俺にとって大事だとして、弟くんは俺にどうして欲しいのかな」
そう言って彼は、写真と同じような笑みを浮かべた。
何が、そんなに楽しいのか。はたまた、その笑みで殺意めいたものを覆い隠しているのか。表面から見ただけでは判断できそうにない。
「……そうですね」
“お前はお前のやり方で”
「多分、前のオレならこの人たちを人質に脅すような発言をしていたと思います。ま、そう言っておいて結局そうする意志は全くないんですけど」
“――なら変われ、ひなた”
だからって関係あるものか。オレが言いたいのは、一つだけだ。
「この人たちに、胸を張っていられる人でいて欲しい。それだけです」
たとえどんな理由があったとしても。人を傷付けてしまえば、こんな風に彼女たちにはきっと、触れることさえできなくなってしまうだろうから。



