すべての花へそして君へ③


 そうしてアカネくんも、先に出ていったオウリくんを追いかけていったけど……あれ、そのままにしてよかったのかな。なんだかんだ、ちょっと微笑ましかったけど。


「大丈夫ですよ」

「え?」

「何故ならここは、百合ヶ丘ですから」

「……ふふ。そうですね」


 彼の、若干オウリくんに対して甘いところも、ちょっと毒吐いちゃうところも、少し新鮮だ。素敵な関係、築けてるみたいでよかった。


「実は、数が少なかったので出し惜しみしていたお菓子があるんですよ」


 そう言って彼は頭上に花を飛ばしながら、若干スキップのような足取りで再び奥の方へと姿を消した。奥の方、気にはなるけど、見に行くのにはちょっとばかし勇気がいるな。


「んじゃ、オレも退散すっかな」

「え。なんで?」

「おいおい。話ができねえからって、ぐずぐずしてたのは何処のどいつだよ」

「ありゃりゃ。バレバレだったか」


 どうやらチカくん、痺れを切らして助け船を出してくれたらしい。まったく、よく見てるんだから。


「じゃあな」

「待つんだチカくん」

「な、何だよ。……っ、そんな近くに寄んな」

「君、今来た道を帰るのかい?」

「は? それ以外に何処通って帰れって」

「あそこを、通るのかい」

「…………」

「通れるのかい」

「成る程。お前がオレのことをバカにしてるのだけはよーくわかった」

「ありゃま、帰れるのかい」

「もうちょっといてやる」

「あはっ。素直じゃないんだから」


 でも、まだいて欲しかったのも本当だ。実は、ちょっとばかし緊張しているのである。


「お前でも緊張すんのか。それに驚きだわ」

「当たり前でしょう。何か粗相でもしたらって思うと」

「お前よりよっぽどあいつらの方が粗相しまくりだろ」

「あの二人は可愛いからいいんだよう」

「は? いや、それを言うならおま、……」

「……小間?」


 ごほんとわざとらしく咳払いをした彼は、わたしの視線から逃げるように顔を背けた。
 けれど、次に届いたのは優しい声だった。


「お前は、お前でいいんだよ。ありのままで」

「それ、お父さんも言ってたんだけど……」


 正直に言おう。ありのままをぶちまけたら、きっとみんなわたしから離れていくよ? いろーんな面でわたし、比べ物にならないくらい自他共に認める変人だからね。よっぽどマニアックな人くらいだよ、いてくれるの。


「そういうところは出しちゃ不味いだろ」

「でも、ありのままでいいって言ったじゃん」

「お前……マジでわかんねえの」

「え? 何が、っ痛い……」


 ビシッと見事にデコピンを食らう。
 いきなり何をするんだと、文句が言えなかったのは、帰ってきた彼の視線があまりにも真っ直ぐだったから。さっきわたしから逃げたのがまるで嘘のようだ。


「今まで、いろいろ隠してきたんじゃねえの」

「言いたいことはわかってるよ。でも、ありのままがダメな場面だってある」

「そうだな。でもお前だって、ありのままでいたいって思ってんだろ」

「それはね。そうしたいって思ってるし、そうした方がいいとも思ってる。わたしはわたしだし、何処にいても変わりたくない」

「なあアオイ」

「ん?」

「オレの親父の会社が潰れた原因は」

「……っ、え」