「はい、到着~」
「ちょっと変わった部屋だけどおー」
そして彼らが開いた扉の奥に、わたしとチカくんは二人して絶句した。
「……えーっと」
「な、何て言うんだっけかこういうの……」
「じゃあ呼んでくるー!」
「二人はちょっとかけて待っててね!」
わたしたちの戸惑った様子を気にかけることなく、彼らはさっさと部屋の奥の方へと姿を消してしまった。
「理事長室、だよね」
「多分な……」
うちの理事長も常にテレビにゲーム繋いでるし、そもそもわたしだってオタクを存分に囓ってるから、趣味がどうこう言えた立場じゃないけど……。
【統一感のない趣味を、これでもかと言うほど無雑作に詰め込んでみました!】
ざっと見たこの部屋印象は、ずばりそんな感じ。まるで外国にでも瞬間移動したかのようだ。主に南アフリカ的な。
どうしたもんかと、視線で相談していると、奥から男性が一人やってくる。「……おや、おかけになっていなかったんですか」と、手には綺麗にお皿に盛られたお菓子が。
彼は、以前にもお世話になったことのある奇抜な案内人でありこの部屋の主。今日は仮面をしていないようだが、どうやらその仮面もこの部屋を見渡す限り、彼の趣味嗜好の一部らしい。
「素敵なものばかりで目移りしてしまって」
取り敢えず椅子を探してはみたが、それらしいものが見当たらなかった、とは言わないでおく。
けれど、どうやら彼はいろいろ察してしまったらしい。「これはこれは。失礼致しました」と、ソファーを埋め尽くしていた異国の雑貨たちを、てきぱきと別の場所に移していった。
「ひとまずお茶請けだけですが」
「あ、どうぞお構いなく」
「ご招待したのは此方ですから。それこそお構いなく」
「……ありがとうございます」
美味しそうなクッキーに目をキラキラさせていると、「ただのビスキュイですよ」と、そう言いつつ嬉しそうに彼は頬を緩ませた。
「この間美味しい紅茶が手に入ったんですよ。紅茶はお好きですか?」
「はい。と言っても、多種類飲んだことがあるわけではないのですが」
「大丈夫です。あの紅茶はあまり癖もなくて、すっきりした飲み口ですから。柊くんは?」
「紅茶で大丈夫です。ありがとうございます」
そうですか、と楽しそうに笑みを浮かべながら一度頷いた彼は、今度はお茶を取りにもう一度部屋の奥へ姿を消す。
彼が発掘してくれたソファーに腰を下ろすと、傍に寄せてくれた小さなテーブルからは、焼きたてのビスキュイが、ほんのり甘い香りを漂わせていた。
(……そういえば、何も食べてなかったっけ)
つまりはいろいろあってお腹が空く暇すらなかったのだけれど、気付いてしまったらもうお腹の虫は治まらない。
「「お待たせ~!」」
「美味しい紅茶が……っと」
「あ、あの……」
「すんません、ちょっと腹減ってたらしくて」
「そういえばシューラスクもありましたね」
「す、すみません……」
綺麗に平らげられていたお皿を見て、彼はふっと優しく笑みをこぼす。そして目にも止まらぬ早さでなくなったビスキュイに、チカくんは驚く間もきっとなかったであろう。次は、ちゃんと味わって食べよう、うん。



