すべての花へそして君へ③


 上手く伝わらねえな、と。一呼吸分静かに間を空けてから、もう一度言い換えた。


「お前の頼みなら、いつだって喜んで引き受けるから」

「……! ありがとう。チカくん」


 お互いの言外の意味に二人して笑い合っていると、「まあ」と彼は、困ったように鼻で笑った。


「よっぽど、どっかの甘味処の方が旨えと思うけど」

「わたし、一番素敵なところ知ってるから」

「飲んだことねえんだろ他の」

「飲まなくてもわかるもん」

「……こりゃ、下手なの出せねえじゃねえか」

「また今度行くよ」

「そんな頻繁に来んなよ」

「えー。喧嘩したら居候しようと思ってたのに」

「駆け込み寺か、オレんちは」

「似たようなもんでしょう」

「……はあ。取り敢えず、早く会いに行け。バカ」

「もちろんっ。手土産持って行くよ」


 ――――――…………
 ――――……


「ありゃ、オウリくんとアカネくんが? 珍しいこともあるもんだね」


 そして歩くこと数十分。


「……チカくん?」

「多分ここで間違いねえんだけどな……」

「え? ……ここ?」

「ああ」


 目的地に着いたらしいわたしたちは、二人して廊下のど真ん中で頭を捻っていた。
 第3生物準備室なんて、何処にもないのだ。


「わたしの聞き間違い? タカト第3って言ってなかったっけ? そもそも生物室じゃなかった? 準備室でもなかった??」

「お、落ち着け。オレも聞いてたから間違いねえって」


 それに、会場からかなり離れているので、点いている電気は廊下に一つ。暖房もあまり効いていないようで、薄ら寒く薄気味悪い。何か出てきそうな雰囲気だ。


「出てきてもわかんなくて申し訳ないよ。お母さん連れてくればよかった」

「や、やめろ。マジで出てきたらどうするんだっ」

「流石にもう取り憑かれることはないと思うよ?」

「そういうことを言ってるんじゃねえ……」


 ああ、ただ単にホラーの類いが苦手というわけか。成る程成る程。だからさっきからわたしのコートちょっと重いんだな。そんでもってわたしの背中に隠れているんだな。……可愛いなこん畜生め。


「……ひっ!?」

「な、……何?」


 一回、タカトさんに連絡を入れた方がいいだろうか。
 そう思っていた時だ。廊下の突き当たりから、何か物音が聞こえたのは。


「あっちは確か……」


 地図でもう一度確認してみる。……うん。やっぱり、第3生物準備室の方向で間違いなさそうだ。
 何か、物でも落ちたのだろ――ガタガタガタガタッ……雪崩でも起きたのかな。


「鍵は……かかってる、か」


 プレートのない扉は、わたしたちが入ってくることを拒んでいた。開いているなら、落ちた物をついでに直しておいてあげようと思ったけど、閉まってるなら仕方がない。


「ねえチカくん、もう一回タカトに――」