上手く伝わらねえな、と。一呼吸分静かに間を空けてから、もう一度言い換えた。
「お前の頼みなら、いつだって喜んで引き受けるから」
「……! ありがとう。チカくん」
お互いの言外の意味に二人して笑い合っていると、「まあ」と彼は、困ったように鼻で笑った。
「よっぽど、どっかの甘味処の方が旨えと思うけど」
「わたし、一番素敵なところ知ってるから」
「飲んだことねえんだろ他の」
「飲まなくてもわかるもん」
「……こりゃ、下手なの出せねえじゃねえか」
「また今度行くよ」
「そんな頻繁に来んなよ」
「えー。喧嘩したら居候しようと思ってたのに」
「駆け込み寺か、オレんちは」
「似たようなもんでしょう」
「……はあ。取り敢えず、早く会いに行け。バカ」
「もちろんっ。手土産持って行くよ」
――――――…………
――――……
「ありゃ、オウリくんとアカネくんが? 珍しいこともあるもんだね」
そして歩くこと数十分。
「……チカくん?」
「多分ここで間違いねえんだけどな……」
「え? ……ここ?」
「ああ」
目的地に着いたらしいわたしたちは、二人して廊下のど真ん中で頭を捻っていた。
第3生物準備室なんて、何処にもないのだ。
「わたしの聞き間違い? タカト第3って言ってなかったっけ? そもそも生物室じゃなかった? 準備室でもなかった??」
「お、落ち着け。オレも聞いてたから間違いねえって」
それに、会場からかなり離れているので、点いている電気は廊下に一つ。暖房もあまり効いていないようで、薄ら寒く薄気味悪い。何か出てきそうな雰囲気だ。
「出てきてもわかんなくて申し訳ないよ。お母さん連れてくればよかった」
「や、やめろ。マジで出てきたらどうするんだっ」
「流石にもう取り憑かれることはないと思うよ?」
「そういうことを言ってるんじゃねえ……」
ああ、ただ単にホラーの類いが苦手というわけか。成る程成る程。だからさっきからわたしのコートちょっと重いんだな。そんでもってわたしの背中に隠れているんだな。……可愛いなこん畜生め。
「……ひっ!?」
「な、……何?」
一回、タカトさんに連絡を入れた方がいいだろうか。
そう思っていた時だ。廊下の突き当たりから、何か物音が聞こえたのは。
「あっちは確か……」
地図でもう一度確認してみる。……うん。やっぱり、第3生物準備室の方向で間違いなさそうだ。
何か、物でも落ちたのだろ――ガタガタガタガタッ……雪崩でも起きたのかな。
「鍵は……かかってる、か」
プレートのない扉は、わたしたちが入ってくることを拒んでいた。開いているなら、落ちた物をついでに直しておいてあげようと思ったけど、閉まってるなら仕方がない。
「ねえチカくん、もう一回タカトに――」



