「案内するよ」
「こーら。それこそ無駄な時間」
「葵なら無駄にはならない」
「因みにわたくし、大きな商談を一つ。もうすでに取り付けておりますの」
「嘘でしょ。あの忙しい対応の中、いつそんな芸当できるって言うの」
「因みに因みに、相手は今度船上パーティーをするという噂の」
「小鳥遊さん!? 僕とはそんな話、一つもしてくれなかったのに」
「はいはい。時間は有限だよ。頑張って」
パンパンと両手を叩き催促させるけれど、彼はわたしに気を遣ってか、今すぐにでも全力疾走したいだろう衝動を抑え、その足をピクリとも動かさない。ぽんと、後ろから肩が叩かれた。
「オレがついてるんで」
「チカくん、いいの?」
「いいんだよ。どーせすることねえし」
「柊くんがいるなら、大丈夫かな」
「それじゃああとは頼むね、いろいろと」と、タカトはにっこり笑顔で笑っている。……え? いろいろって?
「そりゃお前、方向音痴だろ」
「え!? 地図持ってるのに!」
「あ、だって柊くん。葵一人でも行ける……って」
「おい、いるのか。いらねえのか」
「イリマス……」
「ぶはっ」
「はあ……たく」
裾を掴む手に、一人は噴き出し、一人は呆れ。取り敢えず、スミマセンと一言謝っておいた。
「第3生物準備室」
「ん?」
「そこ通ってく方が近道だから寄っていって。外雪降ってるし、校舎内なら暖かいだろうから」
「はーい! わかった」
「ま、他に何かあったら連絡して。迷惑とか考えないでいいから」
「はーい」
「あと、ゲーム終わったら早く九条くん捜してあげて」
「は、はーい……」
「それと」
「まだあるんですか」
少しだけ歩みを進めた彼は、その先で小さく振り返り、ほんのちょっぴり照れくさそうに微笑んだ。
――今日は、来てくれてありがとう。
「……ふふっ。こちらこそ、お誘いありがとう!」
歩いて行く背中に、手を振りながらそう叫んでおいた。



