すべての花へそして君へ③


「案内するよ」

「こーら。それこそ無駄な時間」

「葵なら無駄にはならない」

「因みにわたくし、大きな商談を一つ。もうすでに取り付けておりますの」

「嘘でしょ。あの忙しい対応の中、いつそんな芸当できるって言うの」

「因みに因みに、相手は今度船上パーティーをするという噂の」

「小鳥遊さん!? 僕とはそんな話、一つもしてくれなかったのに」

「はいはい。時間は有限だよ。頑張って」


 パンパンと両手を叩き催促させるけれど、彼はわたしに気を遣ってか、今すぐにでも全力疾走したいだろう衝動を抑え、その足をピクリとも動かさない。ぽんと、後ろから肩が叩かれた。


「オレがついてるんで」

「チカくん、いいの?」

「いいんだよ。どーせすることねえし」

「柊くんがいるなら、大丈夫かな」


「それじゃああとは頼むね、いろいろと」と、タカトはにっこり笑顔で笑っている。……え? いろいろって?


「そりゃお前、方向音痴だろ」

「え!? 地図持ってるのに!」

「あ、だって柊くん。葵一人でも行ける……って」

「おい、いるのか。いらねえのか」

「イリマス……」

「ぶはっ」

「はあ……たく」


 裾を掴む手に、一人は噴き出し、一人は呆れ。取り敢えず、スミマセンと一言謝っておいた。


「第3生物準備室」

「ん?」

「そこ通ってく方が近道だから寄っていって。外雪降ってるし、校舎内なら暖かいだろうから」

「はーい! わかった」

「ま、他に何かあったら連絡して。迷惑とか考えないでいいから」

「はーい」

「あと、ゲーム終わったら早く九条くん捜してあげて」

「は、はーい……」

「それと」

「まだあるんですか」


 少しだけ歩みを進めた彼は、その先で小さく振り返り、ほんのちょっぴり照れくさそうに微笑んだ。


 ――今日は、来てくれてありがとう。


「……ふふっ。こちらこそ、お誘いありがとう!」


 歩いて行く背中に、手を振りながらそう叫んでおいた。