「ドット柄のバラには、“君を忘れない”という花言葉があるんです」
「ピンクのバラだから、“可愛い君を忘れない”ってこと? レンくん、それってお断りしてることになるのかな」
「大丈夫です。花を渡す前にきちんとお断りをしてから、そのお詫びに渡しているので」
「なかなかのキザだねレンくん」
断固としてわたしに負ぶわれることを拒否したレンくんは、現在アイくんの背中の上で回復中。立つ歩くの体力はまだないものの、喋る元気は少し出てきたようだ。
「でも、毎回毎回同じ言葉で済ましてるの? それだと女の子に対して失礼じゃない?」
「寧ろオレが、そんなにいろいろ準備してるように見えますか?」
「花まで準備してよく言うよ」
「うっ。……で、でも気を持たせるようなことを言ったところで、好きじゃないと意味ないじゃないですか」
「ううん。ただ、花だけじゃなくて言葉もきちんとその子にあったものを言ってあげた方がいいんじゃないかなって。でないとレンくん、今後大変なことになるかもよ」
「え。あ、あおいさん? どうしたんですか」
「言葉は、足りないことはあっても余るものじゃないから。だから、常に相手には誠意を持って接すること。いいね?」
「よ、よくわかりませんが、物凄く説得力があるので肝に銘じておきます」
言葉は、尽くしてあげればあげるほど相手は嬉しくなるものだと、わたしはそう思ってる。勿論それはお断りを入れる場合でも。きっと、尽くした分だけ自分にも返ってくる。
ま、説得力があるのは恐らく、そんな状況を間近で見たことがあるからだ。主にチカくんの。レンくんの場合、追いかけ回されたらもう……かわいそうな未来しか見えないもん。
因みに、先程の彼から渡された紙には、連絡先と部屋の番号が書かれていた。調べてみると、コーヒーや紅茶、綺麗なケーキ類が部屋の中にはあったらしい。
『彼もわかっていると思いますから、これはぼくが丁重にお返ししておきますう』
『……でも』
『あおいさんが申し訳ないと思う必要はないよ。寧ろ直接会った方が彼のためにならない。勿論あおいさんのためにも』
『……わかった。じゃあお願いします。変なこと任せちゃってごめんね』
『わかっていらっしゃるなら、これからは優しさの安売りなんてしないことです。とっても迷惑なのでえ』
『……ははっ。うん、ごめん。ありがとう』
『あと、早くあいつに会ってやってくださいよ。そっちについてもとてもオレは迷惑してたので』
『はーい。ごめんなさい』
そんな三人を見送ってすぐのこと。ようやく捜し人が見つかった。どうやら彼も、わたしのことを捜していたらしい。
「今連絡入れようとしてたところ」
「あ、そうだったんだ」
「だいぶ、ご無沙汰だな」
「こんばんはチカくん。いろいろ任せっきりでごめんね」



