隠れていた壁からひょっこり姿を現すと、思っていた以上に素直な反応が返ってきた。
けれど見られていたことを知った彼はというと、「居た堪れないです!」と言いたげな顔をして一目散にその場から立ち去ろうとする。
「ねえ。さっきはなんて言ってたの。後学のために教えてよ」
「えっ。あ、アイさん!?」
「ねえねえ! さっきあげてたバラの花! ドット柄だったね! 可愛いね!」
「ええっ!? あ、あおいさんまで……」
けれど残念なことに、足の遅い彼がどれだけ走ったところで、わたしたちには追いつかれてしまうのだ。結構高いヒールだけどね、これ。
「さあー! 観念するんだ!」
「……なんでそんな楽しそうなんです?」
「何か面白そうな匂いがしたから!」
「……嬉しそうな顔ですねあおいさん」
そしてとうとう壁際に追い込まれたレンくんはというと、両サイドから圧力高めに壁ドンされるという、大変惨めな目に遭った。
「レンくん、ここは素直に折れておいた方が、レンくんのためですう」
「……わかりました。は、話しますから、お二人ともちょっと下がってください」
しかも、なんでちょっと恥ずかしそうなの。
よくわかんないけど、多分レンくんが女の子だったら、今の可愛い顔にノックアウトされた男子は多いだろう。レンくんは嬉しくないだろうけど。
予想は案の定当たっていたらしく、わたしたちは告白の現場に遭遇したらしい。いや、後ろから付いて行ったから遭遇とは言わないか。
「とんだところを見られてしまいました」
まあ、レンくんには“たまたま”って言っておいたけど。
「いいじゃん。好かれてる証拠でしょう?」
「それはそうですけど……」
「でもレンくん大丈夫? 顔が疲れてる……」
「今の子で多分、二十人目……くらいですから」
そりゃ疲れもしますよと。バラはもうありませんよと。
どっと疲れを吐き出した彼は、壁沿いにズルズルと崩れ落ちた。
「レンくん、背伸びするからですう」
「やっぱり体力がないのが原因かな?」
「あおいさん、多分それ今違うかも」
「あらそう? うーん、でも」
ここまで体力がなさ過ぎるのも考え物だけれど、座り込んでいるレンくんは酷くつらそうだ。それに顔色も悪いし、脂汗まで。
「レンくん、無理したでしょう。元々体調良くなかったんじゃない?」
「え。あ、いや……」
「やっぱり。どこかで休ませてもらおう? ちょうどアイくんたちもいることだし」
「でも……」
「確かに席を外すことはあまり宜しくはないかもしれないけど、倒れたら元も子もないよ。それは百合側だって望んでない」
「……そう、ですね」
「だから……ね? 二人もいいでしょう?」
「勿論」
「当たり前ですう」
「……じゃあ、そうさせてください」
素直に頷いたということは、結構つらいんだろう。申し訳なさそうに下げている頭を、よく頑張ったねと撫でておいた。



