そんな二人の会話は勿論ばっちりと聞こえていたし、目の端に遣り取りも……半分くらいは映っていたけれど。
「あ。あのー、あおいさん?」
「しっ。静かに」
「「え?」」
申し訳ないことにわたしの興味は、この時すでに9割強、視界に映り込んだとある人物に移ってしまっていたのだった。
体勢を低くしたわたしは、それだけ言って口の前に人差し指を立てた。何があったのだろうかと、みんながわたしの視線を追いかけてみれば、そこには……って。つい最近どっかであったなこのシチュエーション。ま、いっか。
そこにいたのは銀髪の少年。そしてその彼が、女の子と一緒に会場を出ようとしているではないか。
「レンくん、どうされたんでしょう」
「何かこれは……」
「あおいさん?」
「面白そうな匂いがするよね!」
「「え」」
「よし! 行ってみよう二人とも!」
「……くうっ、悉くレンが俺の邪魔してくる!」
「醜い嫉妬は嫌われる元ですう」
そして後をつけること数分。彼らは廊下の突き当たりに辿り着いた。
彼らの声は、さすがにわたしたちのいる場所まで届くことはなかった、……けれど。
「……絵になりすぎじゃない?」
「わたしも今そう思ってたとこ」
「眩しいですねえ」
今は、雪が止んでいるのか。雲間から差し込む月明かりをバックに、窓際に立つ彼らはまるで、絵本の中から飛び出してきた、王子様とお姫様みたいだった。
それから二人の様子を見守り続けること数十秒。動いたのはレンくんの方。
恥ずかしそうに俯く彼女に一歩近付き、何かを呟く。それに少し驚いたように顔を上げると、思ったよりも近くにあった彼の美貌に、あっという間に彼女の顔は耳まで真っ赤に染まる。
そしてそれにふっと優しく笑ったかと思うと、徐に彼は彼女の髪に手を伸ばし、そっと耳に掛け……
「……お」
「あら」
彼女の耳元へ、ピンクと白のドット柄のバラを咲かせた。
その後暫くして、軽やかな足音はパタパタとあっという間に通り過ぎていった。けれどもう一つの足音は、その後ゆっくりとため息交じりに近付いてくる。どうやら酷く疲れているらしい。
「「キザなことしておいてね~」」
「うわあっ!!」



