「……あれ? カオルくん顔赤い……」
「す、すみません」
「いや、謝ることでは……。体調が悪いとかでは」
「今の今で悪くなる人いるんですか」
「……いませんかね」
「ほぼいないと思います」
だったら、どうして彼は顔を赤くしているんだろう。……え、もしや照れたの? あのカオルくんが??
「ほ、褒めていただけることは、滅多にないので……」
(わ、本当に照れてる……)
「……純粋に嬉しいです。頑張ってみてよかった」
「カオルくん……」
「……ありがとう、ございました。ア――「見ーたーぞー」……あ。アイさん」
わたしの背後から恨めしそうに現れた彼に、別段驚いた様子もなく、カオルくんはただ、すっと赤くなった顔を元に戻した。
「なんで二人が、ちょっといい感じの雰囲気になってんの!」
「いい感じ? ははっ。ぼくたちがですか? なるわけないじゃないですかあ」
「なってた。今一瞬だけど、俺は確かにこの目で見た」
「捕獲お疲れ様でしたあ。取り敢えずここで、一息つけそうですかねえ」
「顔赤くなってたでしょ」
「(そりゃ、赤くもなります。あんなこと……あんな笑顔で言われてしまったら)」
「?? ちょっと、カオル。無視しないで」
「ほらほらアイさん。警備の仕事はひとまず終わりですう。次は会場に戻らないと」
どうやら彼にとっては、触れて欲しくない話題らしい。でもアイくんは、その真相を突き止めたくてしかたないんだろう。
こんなんじゃ、お礼にもならないかもしれないけど。
「あ。大丈夫だった? あおいさん」
「うん。二人のおかげで何とも」
「それは……本当によかった。カオルからあおいさんの名前を聞いた時は、肝を冷やしました」
「迷惑かけてごめんね? 心配してくれてありがとう」
「とんでもないです。寧ろ迷惑をかけたのは俺らの方で……」
「実際にこの目では見られなかったけど、その時のアイくん、きっとかっこよかったんだろうね」
「……え」
「だから今日のわたしは、二人のヒーローに助けられて、本当に幸運だった。ありがとう」
「……あおい、さん」
その場にわたしもいたら、一緒になって犯人確保に尽力したのにと、そう思っていたら今度は、アイくんまで真っ赤になってしまった。ただ話題を逸らそうと思っただけなのに。あ、勿論思っていたことは本当だけど。
……どうしたみんな。わたし、そんなに特別なこと言ったかな。
「あ、あおいさん! このあと少し時間ってありますかっ?」
「アイさん、やめておいた方が……」
う~んと、何が原因なのか、あさっての方を見ながら考えていると、アイくんが何かを言っているのが聞こえる。それに対して呆れたカオルくんの、少し咎めるような声。
「このあと……もう少ししたらなんですけど、会場でダンスパーティーすることになってて」
けれどカオルくんの発言を右から左へと受け流したアイくんは、さらに何かを言っている。カオルくんは、大きなため息を溢しながら「ダメですねこれは……」と諦めたご様子。
「もしよかったら、一曲どうかな。なんて」
「アイさん。しつこい男は嫌われますう」
「しつこいって何! 聞いてみただけじゃん!」
「そうですけど、彼女には九条さんという恋人が」
「別に、一曲くらいいいんじゃないの? 付き合いで踊ることだってあるし。……というか今日のあおいさん、声かけずにはいられないんだって! カオルもわかるでしょう?」
「……まあ、それは賛同しますけれどお」



