すべての花へそして君へ③


「……あれ? カオルくん顔赤い……」

「す、すみません」

「いや、謝ることでは……。体調が悪いとかでは」

「今の今で悪くなる人いるんですか」

「……いませんかね」

「ほぼいないと思います」


 だったら、どうして彼は顔を赤くしているんだろう。……え、もしや照れたの? あのカオルくんが??


「ほ、褒めていただけることは、滅多にないので……」

(わ、本当に照れてる……)

「……純粋に嬉しいです。頑張ってみてよかった」

「カオルくん……」

「……ありがとう、ございました。ア――「見ーたーぞー」……あ。アイさん」


 わたしの背後から恨めしそうに現れた彼に、別段驚いた様子もなく、カオルくんはただ、すっと赤くなった顔を元に戻した。


「なんで二人が、ちょっといい感じの雰囲気になってんの!」

「いい感じ? ははっ。ぼくたちがですか? なるわけないじゃないですかあ」

「なってた。今一瞬だけど、俺は確かにこの目で見た」

「捕獲お疲れ様でしたあ。取り敢えずここで、一息つけそうですかねえ」

「顔赤くなってたでしょ」

「(そりゃ、赤くもなります。あんなこと……あんな笑顔で言われてしまったら)」

「?? ちょっと、カオル。無視しないで」

「ほらほらアイさん。警備の仕事はひとまず終わりですう。次は会場に戻らないと」


 どうやら彼にとっては、触れて欲しくない話題らしい。でもアイくんは、その真相を突き止めたくてしかたないんだろう。
 こんなんじゃ、お礼にもならないかもしれないけど。


「あ。大丈夫だった? あおいさん」

「うん。二人のおかげで何とも」

「それは……本当によかった。カオルからあおいさんの名前を聞いた時は、肝を冷やしました」

「迷惑かけてごめんね? 心配してくれてありがとう」

「とんでもないです。寧ろ迷惑をかけたのは俺らの方で……」

「実際にこの目では見られなかったけど、その時のアイくん、きっとかっこよかったんだろうね」

「……え」

「だから今日のわたしは、二人のヒーローに助けられて、本当に幸運だった。ありがとう」

「……あおい、さん」


 その場にわたしもいたら、一緒になって犯人確保に尽力したのにと、そう思っていたら今度は、アイくんまで真っ赤になってしまった。ただ話題を逸らそうと思っただけなのに。あ、勿論思っていたことは本当だけど。
 ……どうしたみんな。わたし、そんなに特別なこと言ったかな。


「あ、あおいさん! このあと少し時間ってありますかっ?」

「アイさん、やめておいた方が……」


 う~んと、何が原因なのか、あさっての方を見ながら考えていると、アイくんが何かを言っているのが聞こえる。それに対して呆れたカオルくんの、少し咎めるような声。


「このあと……もう少ししたらなんですけど、会場でダンスパーティーすることになってて」


 けれどカオルくんの発言を右から左へと受け流したアイくんは、さらに何かを言っている。カオルくんは、大きなため息を溢しながら「ダメですねこれは……」と諦めたご様子。


「もしよかったら、一曲どうかな。なんて」

「アイさん。しつこい男は嫌われますう」

「しつこいって何! 聞いてみただけじゃん!」

「そうですけど、彼女には九条さんという恋人が」

「別に、一曲くらいいいんじゃないの? 付き合いで踊ることだってあるし。……というか今日のあおいさん、声かけずにはいられないんだって! カオルもわかるでしょう?」

「……まあ、それは賛同しますけれどお」