すべての花へそして君へ③


 セキュリティーの穴をかいくぐられたこと。何も知らない一般人を巻き込んでしまったこと。危険な目に遭わせてしまっていたかもしれないこと。
 そして彼は――深く頭を下げた。


「感謝は受け取れません。あなたが謝罪する必要もありません。パーティーどころではなくしてしまったのは、ぼくたちが原因です」

「カオルくん……」

「深く謝罪します。申し訳ありませんでした」

「……うん。君たちの気持ち、ちゃんと受け取ります」


 もし自分が逆の立場なら。そう考えたら、その謝罪を受け取らないわけにはいけなかった。それに……こんなカオルくんわたし、初めて見るもん。


「なんだかカオルくん、少し変わったね」

「あなたの頭は相変わらず平和ボケしていて幸せですね」

「……気のせいか」

「声に出します? それって」


 コズエ先生とどうなったのかとか聞いてはないけど、彼の中で、小さな変化があったのは確かだ。
 前の彼なら、警備だってただの仕事で。不特定多数の安全のために頑張るなんてこと、きっとしなかったと思う。


「さっき、助けてくれたじゃない?」

「ぼくは何も。侵入者を捕まえたのはアイさんで」

「え? でもわたし、もしかしたらあの時危なかったかもしれないんだよね?」

「まあ、その可能性もなくは……」

「それに、わたしが困ってたから声掛けてくれたんだもんね?」

「……頭の中、お花咲き狂ってませんか? ぼくがなんでわざわざそんなこと」

「そうだよね?」

「あーはいはい。わかりました。それでいいですけど、感謝は受け取らないってさっき言って――」

「助けてくれてどうもありがとう。ちょっとヒーローみたいだった」

「……はい?」

「だから。危ないところ駆け付けてくれた、正義のヒーローみたいだったよ」

「……正義の、ヒーロー……?」


 うんうん。それはそれは、しれっとさらっとしてたけど。でも一生懸命その後も、そばにいて守っていてくれたし、気遣ってもくれたし。優しくもしてくれたし、ふざけてたら怒ってもくれた。


「あ、あの、朝日向さん。一体何が言いたいんです?」

「ん? ふふっ。カオルくん、かっこよかったよって話」

「……は?」

「よっ! 正義のヒーロー! 羨ましいなあこのやろうっ」


 だからわたしは、それがすごく……嬉しいんだ。彼の世界は、とてもとても小さかったはずだから。